虫食いの家(うち)
【作者】
森下くるみ
【あらすじ・概要】
一時期はAV女優でもあった著者が赤裸々に自分の半生を綴ったエッセイ。幼少のころから東京に出て働き始めるまでの思い出を語る。
秋田で過ごした幼少時代は貧しく、酔うと人格の変わる父との関係に苦しんでいたこと。
故郷を離れ東京で一人暮らしを始めるのに、寂しさはなく開放感に溢れていたこと。
東京に出てから父と再会し時々食事などするようになったが、距離は埋めることができず、良い「家族」の幻想を追うのをあきらめたこと。
弟と母とはそれなりに良い関係を築けていること。
特に幼少期は閉塞感のある暮らしをしていて、自分でも意味が分からず知人を石で殴ってしまうほど屈折していた。
屈折した生き方を引っ張ってきた著者であったが、東京に出て、家族以外にも「自分を認め支えてくれる人がいる」ことを知り、自由を手に入れることができたのだろう。
最後まで父との関係を回復させることはできなかったが、それを含めて自分を受け入れ、今では自分の子供を愛することができている。
【感想・考察】
人格を形成するのに「家族」の持つ影響は極めて大きい。捻じれた家庭で真っ直ぐ育つことは難しいだろう。
著者の場合は一時期家族から離れたことがまず良かったのだろう。そこで自分が活躍できる仕事と出会えたことも幸運だったのだと思う。
著者の幼少委の家の近所に、違う種類の不幸を抱えた家庭が集まっていたのも印象的だ。
貧乏という最大公約数はあるが、貧しさが不幸の原因なのか、結果なのかは分からない。
いずれにせよ、閉塞した世界から抜け出すことができたストーリーとしてみると、希望を感じられる。