宇宙に外側はあるか
【作者】
松原隆彦
【あらすじ・概要】
宇宙観察の進歩、宇宙の起源、宇宙の形状、宇宙の外側について、現在の学説を平易な言葉で解説している。
現在では「宇宙マイクロ波背景放射」の観測から宇宙の誕生から38万年後くらいの状況は探れるようになった。それ以前を探る手がかりとしてニュートリノの分析や重力波の解析が期待されている。
直接観察以外にも現在残っているものから考古学的な理論分析で、宇宙が始まってから1兆分の1秒くらいまでのビックバンの様子は推定されている。ビックバン理論に基づいた「標準宇宙論」と呼ばれている。
宇宙に存在する物質は理論値の4%ほどしかなく、「ダークマター」とされる観測できない物質が23%ほど、残りは「ダークエネルギー」として存在していると推定されている。
力を統一する理論は不完全。電気力と磁気力は電磁気学により統一され、電磁気力と弱い力は電弱統一理論により統一されているが、電弱力と強い力の統一は不完全で、さらに重力波蚊帳の外に置かれている。宇宙の初期の高エネルギー状態では力は一体でエネルギー密度が低下するに従って分岐してきたという考え方もある。
宇宙のごく初期に急激な膨張があったという「インフレーション理論」は、光の速さでも届かない距離で相互の影響を与えていたことや、素粒子の密度が低すぎることをうまく説明できるといている。
宇宙の形として、正の定曲率を持つ「閉じた宇宙」、負の定曲率を持つ「開いた宇宙」を紹介する。
量子論の世界では「観測されるまでは様々な状況が重なり合って存在している」としてるが、これがエヴェレットの多世界解釈と繋がる考え方であると紹介している。
微調整問題として、物理学上の様々な定数(パラメータ)が生物の存在に好都合すぎる不自然さも取り上げている。多世界解釈では都合の良い可能性分岐だけで生物が存在しているのかもしれないし、認識する側の捉え方によるのかもしれないとしている。
【感想・考察】
難しい観念も数式などを使わず、極力わかりやすく説明している。
「二次元世界から見た三次元の球」と同じように「三次元世界から見た四次元での球的なもの」が宇宙のイメージだったが、「正定曲率の閉じた宇宙」として明確に描かれていて、すっきりと腹に落ち感激した。
また、エヴァレットの多世界解釈は、何らかの分岐があるたびに世界が無限に増殖していくイメージだったが、過去についても未来についても、量子論的に「重なり合った状態」で様々な分岐が合わさって存在していて「観察者にとっては自分が踏み込んだ分岐以外は認識できない」だけなのだ、という考え方が理解しやすい。直感的に理解しにくい量子論が少しだけ見えたような気がした。
好奇心を刺激する本。