毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

優しくって少し ばか

【作者】

 原田宗典

 

【あらすじ・概要】

 多彩な男女の関係を描いた6作からなる短編集。

 

・優しくって少し ばか

 句読点をあまり使わない、文章の区切りを口語的なスピード感でつなぐ手法で、すぐ隣で話を聞いているような感覚を受ける。バブル全盛を迎えようつする時期のコピーライターらしく、スタイリッシュにまとめようという感触はある。それでも原田氏がエッセイなどで得意とする畳みかけるような、妄想独り言炸裂感もちりばめられていて、楽しく読める。

 男女の微妙な空気感や、まじめで紳士で融通の利かない「優しくって少し ばか」なパン屋の描写など、通してみると温かい雰囲気にまとめられている。

 

・西洋風りんごワイン煮

 1編目から急に変わって、サイコホラー的なタッチ。男性目線で女性の不気味な行動を綴るが、はっきりと描写しきらないことで不気味さを増幅している。

 

・雑司が谷へ

 女性に中絶をさせてしまった男の目線で、女性というものを描く。男の立場から見ると極めてリアリティが高い。男が安らぎを感じるところ、苦しさを感じるところ、悲しさを感じるところ、怒りをかじるところ、が、かなり赤裸々に描写されている。

 

・海へ行こう、と男は

 短めのホラー。今度は女性からの視点で恐怖を描く。「西洋風りんごワイン煮」で描かれた男性にとっての恐怖は「昨日まで続いてきた日常がいつの間にか姿を変えている」恐ろしさであり、この短編で描かれる女性にとっての恐怖は、「帰るべき浜辺、頼るべきものから、どんどん遠くに押し流されてしまう」ことだと対比されている。

 

・ポール・ニザンを残して

 「優しくって少し ばか」の後日談。文章の洒脱加減は磨きをかけている。非常に暖かい感触を残して終わった「優しくって少し ばか」の後で、二人の関係がねじれてしまうことに、寂しさを感じる。

 

・テーブルの上の過去

 これも「優しくって少し ばか」の流れを汲んでいると思われる。「指輪で能力を封印した占い師」が力を開放し過去の因果を変える。これは救いの物語と捉えてよいのだろうか。

 

【感想・考察】

 20年近く前に愛読していた原田宗典氏の作品を久しぶりに読んだ。この作品自体は相当古いもので、当時一度は読んでいたはずだが、それほどの印象は残っていなかった。どちらかというと、おちゃらけた楽しいエッセイストとして見ていたので、ギリギリまで攻めた小説を読んでも、額面通り受け取れなかったのかもしれない。

 今読み直すと、無理をした感じの文体も20年の時を超え生きるし、男からみた女性の描写のまっすぐさには感銘を受ける。

 

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