毎日一冊! Kennie の読書日記

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「憲法改正」の真実

【作者】

 樋口 陽一・小林 節

 

【あらすじ・概要】

 憲法改正について、「護憲派」の法学博士である樋口陽一 と「改憲推進派」でありながら、「現状での憲法改正には反対」とする 小林節 博士との対談形式で語られる本。

 護憲派と改憲推進派の対談の形式をとっているが、現状では両氏ともに自民党が作成した改定憲法草案には反対の立場。

 「憲法は個人の天賦の権利を守り、権力者を制限することが目的」であり、「立憲主義」の歴史の中で育まれた人類の財産であるとに認識で、自民党の草案は「国民の権利を義務と組み合わせで認められるもの」とし、「権力者が恣意的に執行できる権力の範囲を拡大」するものだと見て反対の立場をとっている。

 樋口氏は明治憲法もよく考えられた良い憲法であり、当時の政治家も「立憲主義」を守るために最大限の努力をしていたとみている。1933年ごろ美濃部氏の天皇機関説が否定され、天皇の統帥権を傘に軍部が立憲主義を踏みにじった時期からの十数年間に政治がおかしくなったとしている。一方で現在の自民党で主要な位置を占める二世、三世の議員は、この十数年間に郷愁を覚え、当時の政治体制を再現したがっているとする。

 「家族」、「伝統」、「和」といった道徳を法に組み込もうとすることの危険性についても述べている。道徳を論拠とすることで反論を封じられる危険性に言及している。

 自民党は「緊急事態条項」を受け入れられやすい内容として、先に組み込もうとしているが、為政者の制限を大幅に取り払うこの部分はむしろ本丸ではないかと見ている。立法権と行政権の分離は近代政治の重要な要素だが、ここが損じられるとしている。

 また9条の改変について、樋口氏は「日本を戦争から遠ざけるために実質的に役に立っている」としている。小林氏は9条の改変自体は賛成の立場だが、個別的自衛権に限ることを明確に述べ、政府の暴走を防ぐことに意義があるとしてる。また、現状の自民党政権の行動を見ていると、この状況で変えるべきではないと判断している。

 すでに自民党は憲法を無視する動きに入っていて、「静かなるクーデター」だとしている。これはワイマール憲法を静かに覆したヒットラーと同じだと断じる。

 国民には「知る権利」があるのと同時に「知る義務」もあり、現在どのようなことが行われているのか知る義務があり、法学者は知らせる義務があると考えている。

 

【感想・考察】

 自民党の憲法草案が、「為政者の制限を軽くしようとしている」、「個人の人権を公益を前提としたものに格下げしている」、「法律に道徳による善悪を持ち込もうとしている」部分には気持ちの悪さを感じる。

 一方で樋口氏のロジックは、「改憲はとんでもない悪」だという前提で述べられており、では「現状よりもっと良くしていくためには何ができるのか」という観点が薄く残念に思った。

 日本国憲法は非常に良い憲法だと確信している。しかし、基本哲学を打ち出すだけではなく、具体的なプロセスまで踏み込んで定めている「法」である以上、現実の社会状況の変化に対し硬直的でありすぎるのは不便だとも思う。「天賦の権利として個人の人権を尊重する」、「三権は分立し制限を受けるべき」、「戦争の放棄」といった骨格部分は極力「硬く」しながら、その下の「法律」で、もう少し「柔らかく」運用することが必要なのかもしれない。

 

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