Kennie の読書録

毎日1冊本を読み、記録を残したいと思います。

配達あかずきん

【作者】

 大崎 梢

 

【あらすじ・概要】

 本屋を舞台として起きた謎を、書店の店員「杏子」とアルバイトの「多絵」が解決していく、5編の連作短編集。

 

・パンダは囁く

 「認知症を患った」親戚から頼まれた本を買いに来る客だが、伝えられた言葉は本のタイトルでも著者名でもなく、意味不明な文字の羅列だった。「多絵」は文字の意味を見抜き、依頼主が置かれた状況と求めていることを理解する。

 

・標野にて 君が袖振る

 元気な老年の母親が行方不明になったと、その娘から相談を受ける。母は失踪直前に買った本で何かに気づい、どこかに出発したので、母が何を買い何に気づいたのか、ヒントを求めて書店に訪れた。失踪した母親の長男が被害者となった30年前のひき逃げ事件が契機となっていることに気づき、「標野にて 君が袖振る」という万葉集の和歌や、コミカライズされた源氏物語などを通し、時を超えた恋愛物語が明らかになっていく。

 

・配達あかずきん

 1週間前に美容院に配達した雑誌に、美容院の顧客の盗撮写真が挟まれていた。美容院の評判が落ち、大きな事件んとなっている中、配達したアルバイト店員が駅の階段で何者かに突き落とされる。誰がどのように写真を挟み込んだのか、正統的な How Done It ミステリーの展開。

 

・六冊目のメッセージ

 病気で入院している最中に、母親経由で差し入れの本を5冊選んでくれた店員にお礼を言うため、書店に訪れた女性。相手のことを考えられた本の選択だったが、書店に該当する店員はいなかった。誰が本を探したのか、杏子と多絵が推理していく。5冊の本のやりとりを経て、6冊目に思いを込めるラブストーリー。

 

・ディスプレイ・リプレイ

 出版社が主催する、書店店頭での「ディスプレイ・コンテスト」に杏子たちの書店も参加することとなる。人気コミックの販促イベントとして行われるが、ディスプレイに興味を持つアルバイト店員や、そのコミックに愛情を持つ友人たちの協力で立派なディスプレイができあがるが、何者かの手によって黒スプレーで汚されてしまう。調べていく中で、そのコミック作品の盗撮疑惑がネットで話題になっていることも分かり、ディスプレイの破損にも関わっていると思われた。最後はある人物からのメッセージで気持ちの良い幕切れを迎える。

 

【感想・考察】

 作者には書店での経験があるとのことで、本の手配や配達、出版元のと関係など、外側からでは見えない世界が描写されていて面白い。また作者の本に対する愛情が深く滲んでいるのも、読んでいて好感を覚えるポイント。起きる事件に深刻なものもあるが、どちらかというと犯罪性の薄い日常的な出来事についての謎を解いていくスタイルで、読みやすく心に入って来やすい。ミステリの面白さは事件の重大さと比例するものではなく、鮮やかな仕掛けがあれば日常的な話であっても十分に楽しめる。

「標野にて 君が袖振る」はミステリとしても面白いが、時間を超えた恋愛物語として非常に美しい話だった。この連作集では一番好きな作品だ。