宵山万華鏡
【作者】
森見 登美彦
【あらすじ・概要】
京都祇園祭での「宵山」を舞台とし、万華鏡のように折り重なる人々と出来事を幻想的に描く。
バレー教室に通う姉妹の妹を主人公とする「宵山姉妹」では、祭りの煌びやかで不安な雰囲気の中、姉とはぐれ赤い浴衣の少女たちに「宵山様」に連れて行かれる。
宵山祭りの日に、主人公が高校時代からの友人「乙川」に悪戯をしかけられる「宵山金魚」では、祭りの夕暮れの美しさと、狂気を感じさせられる。
つづく「宵山劇場」では、仕掛けられた「悪戯」の舞台裏を描く。「乙川」は無意味な悪戯に資金をつぎ込み、徹底した世界を作り上げた。「乙川」の世界を実現する美術監督と道具係が主人公。
「宵山回廊」では15年前の宵山祭りで従姉の手を離してしまった女性が主人公。従妹はそれきり行方不明となったままとなっている。その従妹の父親である画家の言動がおかしいと感じるが、彼は「宵山祭り」の1日を永遠に繰り返し抜け出せないまま、1日の中で歳をとっていった。
「宵山迷宮」では一人の画廊が主人公だが、彼もまた「宵山祭り」の繰り返しに入り込んでしまった。彼の父は一年前の「宵山祭り」の日に衰弱して死んでしまったが、父もまた永遠の1日に捉えられていたのだと思い至る。「乙川」が求めている「万華鏡に組み込む水晶玉」を見つけ、持ち主に返すことで永遠の1日から解放される。
最後の「宵山万華鏡」はバレー姉妹の姉側の視点で描かれる。意図的に妹の手を離してしまった姉が、自分と妹のために空気よりも軽い水と金魚を封じ込めた風船を求め、宵山の奥深くに足を踏み入れ、「宵山様」に迎え入れられる。彼女はそこから逃れ、「宵山様」に引き寄せられていた妹も引き戻し、「宵山祭り」の夕暮れから離れていく。
【感想・考察】
京都を舞台とした、幻想的で非現実的で美しく狂気を孕みコミカルで無意味で煌びやかな世界描写が頭から離れない。同じ著者の「四畳半神話大系」や「夜は短し、歩けよ乙女」などと同じように、「京都の夕暮れ」、「異世界への窓」、「祭りの喧騒と寂しさ」を描ききっている。ストーリー自体よりも独特の情景描写、世界観に引き込まれた。頭に情景を思い浮かべながら読むので読了に時間のかかる本。