毎日一冊! Kennie の読書日記

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香港 返還20年の相克

【作者】

 遊川 和郎

 

【あらすじ・概要】

 香港返還20年を迎え、その変遷を主に政治・経済の観点から解説していく。

 第二次世界大戦後、列強の植民地が次々独立する中で、香港の租借契約はアヘン戦争後に李鴻章と英国間で合意した期限通り99年は有効だとされた。これは、植民地を一気に失った英国がアジア圏での足場を少しでも維持したかったことと、中国側は東西対立の緊張が高まる中、西側諸国との窓口が欲しかったということで、相互の利害関係が一致したためであると分析している。

 実際に返還が行われた1997年前後には、両国にそれぞれ思惑があったが、中国は当初台湾に対する腹案としていた「一国二制度」の手法を香港に適用し、主権はあくまで中国にあるとしながらも、返還後も50年間は香港の政治経済体制の独自性を認めるということで、ソフトランディングを果たした。

 返還後、英系の資本の引き上げがありつつも、中国の外貨決済や株式取引など窓口としてアジアの金融拠点としての位置を固めていった。

 しかしながら、返還後の初代行政長官は経済界寄りの人物で政治経験が薄く、政治経済麺での失策が続いた。

 経済面では、一時的な住宅価格低下を受け、住宅政策を財界側に寄せたため、その後の中国資本流入などの影響で急騰した価格を制御できず、庶民、特に中間層には住宅購入が望めない状況を引き起こしてしまった。

 政治面でも、完全に英国の支配下にあった植民地体制から、民主主義を確立しようとしたが、中国政府の意向を汲みながら中途半端な対応となり、2010年以降の本格的な対立の一因となっている。

 また2000年台中盤以降、香港基本法の解釈や中国人の居住権をめぐる法廷判断などでも、中国全人代の司法解釈が香港司法の頭越しで行われる事態が頻発し、「一国二制度」による司法の独立が形骸化していった。

 2014年に起こった雨傘革命」は、候補者は中国側の過半数の支持を受ける必要があるとして、普通選挙を骨抜きにする施策が取られたことに対する学生を中心とした運動だった。初期は香港政府に対する抗議活動だったが、徐々に講義対象とすべきは香港政府ではなく、中国政府だと言うことがわかり、中国政府は一歩も譲歩しないという姿勢が明確になることで、運動者の中で諦観が大勢を占めるようになり尻すぼみで収束した。

 「雨傘革命」の運動自体は収束したが、香港市民の中で中国に対する反感・不信感が膨らみ、2016年の選挙では「香港独立」を唱える「本土派」が議席を取るなど反動が起こっている。「本土派」などは議員資格を奪われるなど実行力を失っているが、香港市民の中でも特に「高学歴」、「高収入」、「若者」など、中心となって引っ張っていく立場・世代の人による支持が強く、政府と民意の乖離が激しい。

 

【感想・考察】 

 1997年前後からの香港政治経済の歴史を詳細に解析している。事実関係の整理だけでも相当の調査が行われており、史料として価値が高い本。

 中国と香港の関係改善を強く望む。

 香港人から見ると、香港は中国をリードしていたという自負があるのだろうが、世界のパワーバランスの中で「時局に乗った」部分があり、中国との関係自体は謙虚に捉え、中国人に敬意を払うことは必要だろう。使えるものは徹底して利用する「したたかさ」が香港人にはあり、そういう逞しさをもっと発揮してほしい。

 中国側を考えると、「違う考え方」に対する許容量があまりに小さいと感じる。中国の歴史を見ると、強大な皇帝が国を支配していた時期は平和で良い時期であり、地方ごとに分権的な状況にあった時は戦乱期で、平和で発展的な分権政治を経験していないことがあるのかもしれない。他民族をまとめ上げるためには明確な「正義」がなければ立ち行かないことは理解できるが、「自由である」ことの価値を理解し、自らの体制に多様性を組み込めないと、世界のリーダーとなることは難しいのではないかと思う。中国にとっては香港とどう折り合いをつけるかが、今後の試金石となるのだろう。

 

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