毎日一冊! Kennie の読書日記

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わたしを離さないで

【作者】

 カズオ・イシグロ

 

【あらすじ’概要】

 「介護士」キャッシーの回想として語られる物語。幼少時代から思春期までを過ごした学校的な施設である「ヘールシャム」での出来事が前半をしめる。友人のトミー、ルースや、エミリ先生、ルーシー先生やとの思い出が語られる。

 導入部では思春期の少年少女の交流を描く青春小説的な雰囲気だったが、生徒の作り出した美術品や詩などを持ち出していく「マダム」の存在や、ルーシー先生の「あなたたちは教えられているが、教えられていない」という台詞などから徐々に「ヘールシャム」が何のために存在する施設なのかが明らかになっていく。キャシーが「わたしを離さないで」という古い歌を聞きながら枕を赤ん坊のように抱き踊るシーンを「マダム」が目撃するが、このシーンは重要な意味を占める。

 後半は、キャシーたちが「ヘールシャム」を出て、コテージで外界との慣らし期間となる数年を過ごし、さらにキャシーが「介護士」となりルーシーやトミーを介護する立場で再会し、「ヘールシャム」時代の思い出を語りながら、人生の終末に向けて進んでいく。物語の最後では「マダム」との再会で「ヘールシャム」の目指していたことが明確になるが、生徒も先生も結局は運命に抗うことができず、静かに運命を受け入れていく。

 

【感想・考察】

 主人公の回想で徐々に状況が明らかになっていくが、驚くべきは「ヘールシャム」の生徒たちが、自らの運命を教えられながら、それを受け入れていたということ。「知ってはいるけど、心の底で理解しているわけではない」状態の不気味さが浮かび上がってきた。また、エミリ先生や「マダム」であるマリ・クロードの戦いは、淡々と抑えた描写で語られるが、とても熱く、キャシーたちが真相を知るシーンには深い感銘を受けた。また特筆すべきは翻訳の優秀さ。翻訳物にありがちな引っかかりもなく、情景が自然に頭に思い浮かんでくる。

 終始静かな雰囲気で物語は進むが、鮮烈な印象を残す作品だった。

 

 

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