山月記
【作者】
中島 敦
【あらすじ・概要】
進士登台した李徴 が、官職を捨て詩作に没頭するが、秀作を著すことができず生活にも困窮し、再び官の仕事に戻る。以前は凡人と見下していた同期たちもすでに昇進し、自らの立場を認められず苦しむなか、李徴は虎に姿を変えた。
かつての友が通りかかった時、残っていた人間の理性で襲い掛かるのを止め、自らの想いを吐露した。詩作を志しながら自分の才能の限界を知るのを恐れるような「尊大な自尊心」が、飢え苦しむ妻子よりも自分の詩を先に考えるような「利己的な心」が、まさに獣であり、自分はそれにふさわしい姿になったのだ、と嘆く。
【感想・考察】
文章が非常に美しい。やや硬い文体だが、月夜が明け行くさま等、引き締まりながら情景豊かで深い感銘を与える。小説のテーマは表現者の苦しみや、自尊心との戦いなのだが、内容自体よりも描かれる情景の美しさにまず心が引かれた。高校生の頃の教科書で読んだ記憶があるが、違う状況で読んでみるとまた面白い。