毎日一冊! Kennie の読書日記

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プリオン説は本当か? タンパク質病原体説をめぐるミステリー

【作者】

 福岡 伸一

 

【あらすじ・概要】

 羊のスクレイピー病や狂牛病などの病原は、ウイルスや細菌ではなく、変性したプリオンタンパク質自体が感染性を持っているとの説がノーベル賞を受賞した。

 

 ウイルスとは思えない程小さい、ウイルスよりも熱などへの耐性が高い、ことからウイルス以外が感染源になっている可能性が考えられ、感染した羊の脳に見られる変性プリオンタンパクを健康な羊に接種すると発病することが確認された。また、正常型プリオンを持たないノックアウトマウスでは、発症したマウスから感染しないことからも、変性プリオンタンパク自体が病原だという「プリオン説」が提唱さた。

 

 タンパク質は、DNAからRNAを経由して複写されていくというのが、生命のセントラルドグマだったが、DNAを持たないタンパク質自体が他のタンパク質を連鎖的に変性させているという「プリオン説」は画期的な考え方だった。提唱したプルシナーはノーベル賞受賞に至っている。

 

 しかしこの著者は、感染の有無を確認するバイオマーカーとしてのプリオン発見は偉大な功績だとしながらも、ウイルス等が原因である可能性は排除されておらず「再審」が必要だとしている。反論の根拠は以下の通り。

・「ウイルスではありえない程小さい」というのは電離放射線による不活性化で確認されたが、当時(1960年代)のデータはすべて概算値であり、現在見直すと分子量90万~150万ほどで小さいウイルスとしては十分にあり得る。

・「高熱に耐性」があるとしたグラフも時間軸が指数で示されており、初動の大幅な減少が無視されやすくなっている。

・脳においては変性プリオンの蓄積と感染性が比例しているが、脳以外の唾液腺などのリンパ節などでは感染性が先に増え、後追いで変性型プリオンが蓄積してる。これは変性画型プリオンが原因なのではなく、「何らかの原因で症状が発生し、その結果として変性型プリオンが蓄積した」と考える方が自然。

 

 このような理由から、著者たちのグループは「プリオンタンパク質は感染源ではなく、感染を媒介するレセプターなのではないか」という視点から、ウイルスなど他の病原の存在を追及している。

 

【感想・考察】

  「科学的なものの見方」はどういうものなのかを教えてくれる本。プルシナー達はプリオンを狂牛病などの感染を確認する基準マーカーとしてプリオンを見出し、感染拡大を防止したことには間違いなく貢献しているだろう。一方で「プリオン説」は変性プリオン自体を病原とみることから、「プリオンの蓄積が無い24か月未満の牛は安全」、「プリオンが蓄積しやすい脳や脊髄以外は安全」といった捉え方をされ、もし実際にはウイルスなどが原因だった場合には危険な考え方ともいえる。

 また、感染源の10倍希釈を繰り返し、感染力を確定するために何千何万の検体が必要なことや、C型肝炎など電子顕微鏡でもウイルスが発見できない中で感染源を特定していくことが、砂漠の中で一粒の砂金を探すほど大変な作業なのだということが理解でき、医療研究者には頭が下がる思いだ。

 科学的な説明が分かりやすく書かれており、良書だと思う。 

 

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