毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

新しいメディアの教科書

【作者】

 佐々木 俊尚

 

【あらすじ・概要】

 毎日新聞記者からアスキーを経てフリージャーナリストとなった著者が、ネットメディアの動向解析と進むべき方向性の示唆を記した本。「良質なコンテンツ」と「最適な配信方法」が大事だとしている。

 

 ネットメディアはまだ20年程度の歴史しかない。新聞、テレビ、雑誌などは、コンテンツ作成・伝え方・マネタイズなどの手法を長い歴史の中で磨き上げてきたが、現状のネットメディアはまだ成熟しておらず試行錯誤が続いている。

 例えば映画のマネタイズであれば、最初は映画作成会社が自前の上映施設で料金を取っていたが、上映専用の映画館にフィルムを配給することで、幅広く収益を上げられるようにした。のちにはテレエビ曲に放映権を売ったり、ビデオやDVDなどメディアの販売でも利益を上げられるようにした。

 一方で黎明期のネットメディアは、例えば雑誌やテレビの広告モデルを模倣しPCの画面上に広告を表示したりした。ところがネットの窓口がPCからスマホなどのモバイルデバイスに移るに従い、狭い画面に広告が挿入されることに嫌悪感が広がってきた。

 Google は利用者の閲覧履歴などの情報から広告をパーソナライズして、より効果的な広告を見せようとしているが、あくまで統計的な数量として扱うやり方は閲覧者に対する敬意を感じられないとしている。

 これに対し、より質の高い「ネイティブ広告」(雑誌の記事広告のようなもの)は一つの解答になるのではないかと見ている。供給者の側から見れば、記事本文は記者が「コストをかけて作った成果物」で、広告は「収益のため広告主の意向で作ったもの」で全く性質の異なるものだが、閲覧者の立場からは「誰が作ったコンテンツなのか」という区別に意味はなく、「自分の興味ある内容、役に立つ内容か」が大事とする。

 閲覧者に取っての利益を考えず、単に「数を稼ごう」とする態度から、クリックさせるための扇情的なタイトルや、SEO対策の施された質の低い記事のコピペなど、価値の低いジャンクな情報が溢れてしまい、結果的に提供者の首を絞めることになる。

 ネットに移行し「長いコンテンツは読まれない」と認識されているが、必ずしも事実ではない。短いコンテンツにアクセスが集中する傾向はあり、数千文字程度の記事へのアクセスは少なくなるが、1万文字に近いような長い記事へのアクセスはむしろ増えている。ネットにあった伝え方があり、質の良いコンテンツを読ませやすい方法で伝えれば、間違いなく需要があるとする。

 

 新聞などの 伝統的メディアは、コンテンツを作るための高い能力を持ち、また過去からの膨大な情報資産をもっているが、それを「どう届けていくか」という戦略にかけている。情報の供給が需要よりも少ない時期は、「新聞・テレビに、価値あるコンテンツを載せれば見てもらえるもの」という前提だったが、 供給が需要を圧倒的に上回る現在では、いくら良いコンテンツでも相手に届かない。

 ネットへの窓口がPCブラウザから、スマートフォンなどのモバイルデバイスのアプリ経由に移行するに従い、プラットフォーマートしてFacebookやTwitterなどのSNSが重要な位置を占めるようになっている。コンテツ提供者の立場としては、プラットフォームごとの特性を理解し、「どういう種類の情報は、どのプラットフォームに、どのような方法で」提供するのが効果が高いのか、「メディア・ポートフォリオ」の研究をする必要も出てくるだとうとしている。

 メディアの水平展開とコンテンツの垂直統合の双方が必要なのだと締める。

 

【感想・考察】

 ネットメディアの動向が分かりやすく説明されている。新聞・ネットメディアの双方に見識のある著者ならではの作品。

 SNSが全盛となっている現代では誰もが発信者になれるため、情報収集の質×量 で表す「情報収集能力」の積は、新聞・テレビが主導的であった時代より圧倒的に大きいのだと思う。 ただし、十分なコストをかけ質の高い記事を提供しようとしている「一次情報源」として、伝統的なメディアにもまだまだ大きな価値がある。

 プラットフォーマがより良いUXを目指し、全てのコンテンツプロバイダが閲覧者の立場に立った質の高いコンテンツ提供に努め、伝統的なメディアもその流れに乗り資産を生かすことができれば、ネットメディアはさらに充実していくのだと思う。

 内容の濃い良書だった。

 

 

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