小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団
【作者】
瀬名 秀明
【あらすじ・概要】
藤子・F・不二雄漫画のSF作家瀬名氏によるノベライズ作品で、大筋は原作と同じ。
のび太が拾って組み立てたロボット「ザンダクロス」は地球侵略を狙う機械宇宙人の尖兵「ジュド」だった。のび太たちは鏡面世界に「ジュド」を隠す。
人間の少女を模した「リルル」がのび太に奪われた「ジュド」の奪回をはかるが、鏡面世界からの無理な脱出による爆発で大きなダメージを負ってしまう。静香が侵略者の手先だと知りつつも献身的に治療するのを見るうちに、「リルル」の「心」に迷いが生じる。
機械宇宙人の鉄人兵団が来襲し圧倒的な武力で地球を制圧しようとするとき、「リルル」は人間をかばい、静香と共に自分たちの起源である「神」まで遡って解決を図る。
【感想・考察】
「ドラえもん」の世界観そのままの作品だが、SF作家である瀬名氏の手によるものだけあって、道具やロボットの知能に対する解説や、タイムマシンによる歴史改変に対する独自の解釈が加わるなど読みどころが多かった。
長編では「いいやつ」になるジャイアンは、いつも通り「いいやつ」だったが、スネ夫の心理描写が深く、味わいのあるキャラクターになっていた。特に「昆虫型ロボットは壊せるのに、人間を模したロボットは壊せないのはどうしてだ」という人間のエゴを切り出しながら、反面、感情移入による「思いやり」の美しさを描き出している。
成長した星野スミレが、少年少女たちの冒険を支え、その活躍を祈り讃える歌を歌うシーンは映画版以上に映画的に情景が浮かぶ美しいシーンだった。
「機械が心を持てるのか」という見方をすると、人工知能が急激に進歩している現代的な問題提起でもあると言える。そういえばドラえもんもロボット。「機械は人間と同等の心を持てる」というのが、藤子・F・不二雄氏の当たり前の世界観だったのかもしれない。