Kennie の読書録

毎日1冊本を読み、記録を残したいと思います。

量子コンピュータが人工知能を加速する

【作者】
 西森 秀稔、大岡 真之

【あらすじ・概要】
 実用化が進んでいる量子コンピュータとはどのようなものなのか。その技術が人工知能の発展にどのような影響を与えるのか、かなり学術体視点からではあるが、数式などは使わずに分かりやすく解説した本。

D-Wave社が商用展開を始め、Googleが「従来型のコンピュータより1億倍速い」と評価した量子コンピュータだが、「組み合わせ最適化問題」に特化したもので、従来コンピュータのような汎用性はない。特定の条件下で1億倍速くなる可能性があるということ。

それまで開発がすすめられていたのは、「量子ゲート」方式という従来のコンピュータに近い使い方ができる方式だったが、D-Wave社が研究しているのは「量子アニーリング」方式というもの。いくつかの量子ビットが相互にどのような影響を与えるか重みづけを行い、横磁場をかけ「0」と「1」が重なり合った状態にしながら、それぞれの量子ビットが「0」と「1」のどちらになりたがるか、どちらの状態がより低エネルギーであるかを見る方式。

「組み合わせ最適化問題」というのは、例えば「宅配便のドライバが複数ポイントをどのように回ると最も効率的か」というような問題。仮にポイントが15カ所だとすると1兆3000億通りのまわり方があり、総当たりの計算では相当のパワーを使う。これを「量子アニーリング」方式で解くと量子が安定する形に自然に落ち着くため、完全解ではなくても最適解に近いものが得られる。「アニーリング」とは「やきなまし」のことで熱を加えた金属が分子構成を安定させることで硬度を増す現象を元にした言葉だが、イメージとしては特定のパターンを持つ板の上で砂をふるい続けると模様が現れるようなものだろう。

 次に「量子アニーリング」方式の量子コンピュータが人工知能の発展にどのように寄与するかという話。人工知能を急速に発展させたのは機械学習だが、人工知能が学習する際に「様々な要素が結果に対してどのような影響を持つか」ということの関連付け「クラスタリング」を行うことが重要になる。これは「組合せ最適化問題」が各要素の重み付けが決まった状態から最適解を出すことのちょうど反対で、「数多くの結果をサンプリングすることで各要素がどのような重みを持っているか」を出すことにあたる。例えば、猫と犬を見分けるのに当たって、「目の形」、「耳の形」、「口と目の大きさの比率」などどの要素が大事で、各要素にどのような相関関係があるのか等を求めていくことになるのだろう。「組合せ最適化問題」に適した「漁師アニーリング」方式は逆方向で活用できるということになるだろう。

 また、量子力学のごく初歩的な説明や、基礎研究の大切さや、完全解が得られなくても実用化に踏み切る思い切りなど、科学者・研究者としての提言もされていた。

【感想・考察】

 量子コンピュータという説明の難易度が高い技術に対して、実にわかりやすい説明がされていた。自分の理解がどこまで正しいのか自信のないところもあるが、今実用化されている量子コンピュータがどのようなものなのか、概要イメージを掴むことはできた。「よく理解している人は分かりやすく説明することができる」ことの好例と言える本。