アナタはご本人様でいらしゃいますか〜動的平衡の中で考える〜明日の日本人たちへ
【作者】
福岡 伸一
【あらすじ・概要】
「生物と無生物の間」を研究対象としている生物学者による「未来授業」というラジオ企画の講義を本にまとめたもの。
自分は何人で何人種か、何人というのは主観が決めるのか、他者との関係性から決まってくるのか。
自己同一性は何を持って保たれるのか。人体を構成する細胞は数年でほぼ入れ替わる。記憶が本質だとしても記憶の正確性をどのように担保できるのか。というような疑問を受講者に投げかけ考えさせている。
分子生物学的に見れば客観的な自己同一性はありえず、他者との関係性が本質ではないかという見方をしている。要素と要素の関係性、その動的平衡の中に本質があるのではないかという捉え方。
生命は全ての可能性を最初から備えていて、時間をかけて過剰さを刈り取っている、そこから得意不得意が出てくるという考え方も示している。
【感想・考察】
自分が自分であるとする根拠は何であるのか非常に難しい。たとえば10年前の自分と今の自分が同一の存在であることの根拠としては、「記憶」が最も重要だと考えていたが、記憶を失ったら自分は自分ではないのか、記憶を部分的に忘れたり、記憶が変形しりしたら自己統一性は保たれないのか。そう考えると今の自分と10年前の自分は相当に異なるし、ある意味別人と言えるだろう。
関係性を根拠としても、周囲との関係は常に流動的で変わっていくものだが、自分は変わり得る、変えてもいいというのは希望でもあるという提言は極論ではあるが、一部納得もできる。
自己について考えさせられる本。