四季 春 Green Spring
【作者】
森 博嗣
【あらすじ・概要】
「すべてがFになる」、「有限と微小のパン」などのS&Mシリーズ作品で強烈な印象を残した、真賀田四季博士の幼少期の話。幼少期といっても「幼少」の要素は全くなく、天才の感性が垣間見えるストーリー。”僕”の一人称視点で進むが、複数の人格に別れているので途中までは理解しにくい部分もあるが、後半に至り綺麗に収束して行く。
【感想・考察】
常人をはるかに超える感性で世界を見ている”四季”を描写するのに、”四季”本人の語りでは読者の理解が追いつかないだろうし、完全な第三者の視点では断片的に過ぎる。この作品で半ば四季自身、半ば他人である視点を用意したのは面白い。S&Mシリーズで犀川先生や西之園萌絵など、別種の天才に対話させ ”四季”の卓越性を描いていたのも面白かったが、”四季”自身について真っ直ぐ描こうとしたのはすごいと思う。
この作者自身が大学教授で、自分も含め周囲に天才肌の人物が多かったのだと思うが、天才を描くことが非常に上手だと思う。「肉体や生きていることそのものが、自由を制限している」などという考え方は、普通には出てこないだろう。善悪の基準を大きなスケールで捉え超越しているというのが本当で、一見悪に見えることでも、”四季”自身は極めて純粋で真っ直ぐな生き方をしているのだということが分かった。
森博嗣氏の作品世界を深く味わうためには、ぜひ読むべき本。