蒼穹の昴

【作者】

 浅田 次郎

 

【あらすじ・概要】

 中国清朝の末期、西太后が列強に浸食される中国を守ろうとしていた時期の史実をベースにしたフィクション。苛烈な科挙を乗り越え状元として進士登第した文秀と、貧しい生まれから抜け出すため自らの意思で宦官となり、西太后に最も近づく大総管太監の地位まで上り詰めた春雲の二人が中心となる。

 夫と息子を毒殺し、歴代皇帝を裏から操った悪女として語れることの多い西太后だが、この話の中では国が苦境に瀕している中、無責任に政権を投げ出せず苦しむ一人の女性として描かれている。春雲と文秀は、西太后を中心とした守旧派と、日本やイギリスに影響を受け、立憲君主制を目指し、光緒帝による親政を実現しようとする変法派の争いに巻き込まれるが、それぞれの生き方を見つけ出して行く。

 

【感想・考察】

 素晴らしい作品。傑作。

 最初の方では、科挙や宦官といった中国の制度をその時代を生きた人の視点から説明している。一人の登場人物の呼称が複数あるので、ちょっと人物関係が掴みにくいところはあるかもしれないが、一人の人間でもその時の立場や相手によって多面性があるということが理解できる。

 歴史物語としても、政治ドラマとして見ても十分に読ませるし楽しめるが、何より圧倒されたのはその人物造形と人間ドラマの素晴らしさ。

 特に感銘を受けたのは、

 ・自命と引き換えに、王逸を牢から解放した聾唖の少女が、宇宙を理解した瞬間。

 ・死を覚悟した譚嗣同が、自らに愛を与えてくれた婚約者に思いを伝える場面。

 ・文秀が光緒帝に宛てた手紙の中で、自らの人に対する姿勢に失敗の原因があったことに気づき、気づかせてくれた春雲の妹の心に寄り添おうとする場面。

といったところ。深い感銘を受けた。

 中国の歴史などに若干の知識が無いと読みにくいかもしれないが、ストーリーの素晴らしさは圧巻だった。