君の膵臓をたべたい
【作者】
住野よる
【あらすじ・概要】
人と交わることを避け、全てを自分の中で完結させようとしていた男子高校生である主人公が、女子クラスメートの”共病文庫”を読み、彼女が膵臓を病み余命が長くないことを知ってしまう。「人との関わりこそが生きることだ」と言う自分と正反対の彼女に振り回されながら、徐々に距離を縮め人と関わりを持つことの意味を考えていく。
思いがけない別れを経て、彼女の残した”共病文庫”に描かれた”遺書”を読み、彼女も人との関わりの中でしか自分の存在を見出せないことに苦しみ、主人公の対照的な生き方に敬意を抱き多くを学んでいたことを知る。
彼女の思いを受け取り、人との関わりを持つことを諦めずに粘り強く進めていく主人公は、徹底的に嫌われていた彼女の親友と友達になって、彼女の墓参りを果たす。
【感想・考察】
最初はまどろっこしい文体だと思ったが、中盤以降ストーリーに飲み込まれ一気に読了した。
彼女の死は予定されながら唐突で、命の不確実性とそれゆえ時間はかけがえのないものであることがくっきり書き出されていた。
また彼女の遺書を見るまでの主人公は【相手が自分をどう見ているか】を想像し自己完結していたので、名前は出されず【相手にとっての自分の相対的位置】を自分の名前としていた。一方で主人公は相手を名前で呼ばず、自分にとっての彼女の位置づけを完結できなかった、完結させたくなかったことが察せられる。
タイトルの”君の膵臓がたべたい” というのはちょっと猟奇的で、どういう文脈で語られるのか興味をそそるフックとなった。彼女がホルモンやモツなどの内臓肉が好きというところはちょっと笑わせるが、中盤から終盤の両者の思いのシンクロには鳥肌が立つ。周りの人に優しくしたくなる話だった。