この国のかたち
【作者】
司馬 遼太郎
【あらすじ・概要】
多くの時代小説を著してきた作者が、歴史観を綴ったエッセイ。多くの切り口があるが、特に印象に残ったのは下記の部分。
・日本の帝国主義時代
統帥権の肥大によって現れてきた、それまでの日本の歴史と連続性のない、数十年間の特異な時代だったと見ている。日本の歴史の美しさを愛しつつ、無謀な戦争に突っ込んだ当時の日本を許せない思いなのだろう。帝国主義は自国内でのマーケットが限界に達した資本主義国家が市場と資源を求めて海外進出したもので、当時それほど資本主義が発達していなかった日本が帝国主義に突入したのは、日露戦争に辛勝し拡大した海軍力を縮小できず、さらなる拡大以外に選択肢がない状況にあったからだと述べている。
・江戸文化の多様性
江戸時代はそれぞれの藩での教育や士族制度が極めて多様で、多彩な文化が交わるある意味国際的な時代だったと述べている。作者は特に薩長や土佐などの放埒な文化を特に好んでいるようだ。その多様性が明治の土台を作ったと考えている。
【感想・概要】
歴史を学ぶことにはいくつかの意味があると思うが、その中でも大きなものは
① 過去の出来事の因果関係を学び、これから起こることを予測する助けとする。
② 魅力的な人物の生き方をなぞり、自らのロールモデルとする。
の2点ではないかと考えている。
司馬遼太郎の小説は、人物の描写が魅力的で②のロールモデル発掘に意義があると思っていたが、ストーリのないエッセイでは作者の歴史観が直接的に語られ、豊富な知識が溢れるように流れ込んでくるので、①の意義が強く、違った面白さを味わえた。