『僕が七不思議になったわけ』 小川 晴央
不安ばかりでもよい。恐怖ばかりでもよい。認めがたい後ろ向きな思いばかりでもよい。
でもその中に落ちているひと欠片の心を、決して無視してやるな。
タイトル:僕が七不思議になったわけ
作者 :小川 晴央
オススメ度
恋愛小説 ★★★☆☆
巧妙な伏線 ★★★☆☆
どんでん返し ★★★★☆
総合オススメ度 ★★★☆☆
あらすじ
高校2年の中崎夕也は、3年生が卒業式を行った日の夜に忘れ物を取りに
3学期の最終日、深夜の学校に忘れ物を取りに行った高校生 中崎夕也は、桜の精霊であるテンコにであう。
テンコは「学校の七不思議に欠員が出た」といい、中崎を7つ目の不思議として仮登録されてしまう。
春休みが明け3年生になった中崎は七不思議の力を使い、想いを寄せていたクラスメートの朝倉がストーカー被害にあっていることを知る。
心配性でビビりの中崎だったが、七不思議の仲間たち「赤目の鳥」や「トイレの花子さん」「段数の変わる階段」の力を借りて、ストーカーを撃退した。
それから季節ごとに、中崎と朝倉の視点を切り替えて物語は進む。
終章で「本当の七不思議」とは何だったのかが明かされる。
感想・考察
「ホラー要素を取り入れた学園恋愛もの」っぽい始まり方だったが、最後にきてひっくり返されるインパクトがあった。
中崎は失意に落ち込むけれど、実は誰かに助けられ支えられている。ビビりでヘタレな中崎がゆっくりと成長していく様が格好いい。
ネタバレを知らずに読むべき作品だと思う。
爽快感ある結末を楽しめます!
『百瀬、こっちを向いて。』 中田永一
「休日にあつまっている男女混合の仲良しグループなど、スプラッタ映画で殺害されるために搭乗する役柄でした見たことがなかったので、殺人鬼にだけは気を付けなくてはとおもった」
うん、私もそう思う。
タイトル:百瀬、こっちを向いて。
作者 :中田永一
オススメ度
恋愛小説 ★★★★☆
仕掛けられた謎 ★★★★☆
さわやかさ ★★★★☆
総合オススメ度 ★★★★☆
あらすじ
4つの恋愛小説短編集。
1.百瀬、こっちを向いて。
高校生の相原ノボルは、存在感のない低レベルの人間だと自覚していたが、先輩の宮崎に頼まれ、百瀬陽の「恋人役」を演じることになる。
宮崎先輩は学校でも目立つ美女の神林徹子と付き合っていたが、百瀬との二股交際がばれそうになり、めくらましのため「相原と百瀬が付き合っている」ことを偽装しようとした。
演技だと分かっていても徐々に百瀬に惹かれていく相原だったが、宮崎先輩が百瀬との別れを決意したことで演技の必要がなくなり、偽装恋人の関係は解消した。
2.なみうちぎわ
餅月姫子は5年間の昏睡から目覚めた。
5年前、当時17歳の女子高生だった姫子は、小学生 灰谷小太郎の家庭教師をしていた。ある日学校帰りに海で溺れた小太郎を助けようとして、力尽き沈んでしまった。小太郎は助かったが姫子はそれから5年の間昏睡状態だった。
目覚めた姫子は、すでに大学生となった小太郎が昏睡状態の自分を献身的に介護していたことを知る。
3.キャベツ畑に彼の声
女子高生の小林久里子はライターの叔父から「テープ起こし」のバイトを頼まれた。そこである新進ミステリ作家のインタビューのテープを聞いた久里子は、それが自分の学校の国語教師本田先生のものであることに気づく。
だが本田先生はもう一つの秘密を抱えていた。
4.小梅が通る
地味な女子高生の 春日井柚木は、同じように地味な友人たちと目立たないように学校生活を過ごしていた。
ある日、クラスメートの山本寛太が転んで柚木たちの弁当をぶちまけてしまい、お詫びとして焼肉の割引券を渡す。その焼き肉屋でバイトしていた寛太は、店に訪れた柚木の妹だという小梅に一目惚れしてしまう。 小梅と会わせてくれるよう頼みこむ寛太に、柚木は条件を持ち掛ける。
感想・考察
作者は別名義でホラー寄りのミステリなどを書いているが、中田永一としては割とほのぼのした雰囲気の話が多いようだ。
とはいえ、ちょっとダークな部分とか、ミステリ的な仕掛けが紛れ込んでいるので、あっさり軽くは終わらない。
特に最初の「百瀬、こっちを向いて。」が好きだ。
二股男のひたむきな純粋さや、耐え忍ぶ女子のおだやかな強さとか、明るい部分と暗い部分が混ざり合っているが、それでも登場人物全員が魅力的で好きになる。最後の「百瀬、こっちを向いて。」という台詞には胸をゆすられた。
それ以外の話でも「嘘を抱えながら、誠実に生きようと苦しんでいる」登場人物たちの真っ直ぐさが美しく、どれもいい話だ。
最終話に搭乗する 柚木は、ちょっと女子ウケ悪いかもしれないが。
『リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』 エリック リース
いまは、人間が思いつける製品ならまず間違いなく作れる時代だ。
問うべきなのは「作れるか」ではなく「作るべきか」である。
タイトル:リーン・スタートアップ ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす
作者 :エリック リース
役立ち度 ★★★★★
分かりやすさ ★★★★☆
斬新さ ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★★☆
要約
ハーバード・ビジネス・スクールで教鞭をとり、自らもいくつかの起業を立ち上げた著者が、リーンな (贅肉のない) スタートアップを提唱する。
スタートアップの目標は、顧客が欲しがり、お金を払ってくれるものを探すことにある。
開発者がいいと思うモノを完成させてから世に出すのではなく、「実用最小限の製品を投入し、ユーザーの反応を見ながら方針を決めていく」ことを推奨している。
顧客が求めるものを学習することで、無駄なく最速で提供できるようになる。
著者が「3Dアバターチャットサービス」を立ち上げた経験を語る。
開発者は Skypeなどの既存サービスとの接続が必須だと考え時間をかけたが、結果は芳しくなかった。顧客に話を聞き「新しいメッセンジャーサービスを使うときは新しい人間関係を求めていて、既存サービスとの接続は重視しない」ことを知り、方針転換する。
最初に開発者の思い込みで仕様を決めてしまったことで、無駄が生じていた。
こうした手法を有効に回すためには、要となる「仮説」を定め、「実用最小限の製品」を使い「構築-計測-学習」のループを回していくことが必要だとする。
例えば「ある施策を施すユーザ群と施さないユーザ群の比較を行う」などのためにも「実用最小限の製品」を投入することが必要となる。
このように計測を行っていくと「方向転換をすべき時」が見えてくる。
一部の機能に集中する、顧客セグメントを見直す、顧客ニーズを見直す、アプリケーションからプラットフォームに戦場を移す、成長エンジンを見直す、などの方向転換の必要性を見極めることが大事だ。
また、トヨタ生産方式を参考に「バッチサイズ縮小」を提言している。
例えば「100枚の広告レターの封書入れ」の作業であれば、レターの折り込み、封筒へ入れる、あて名を書く、などを工程ごとに完了させる方が早いと考えがちだが、一つづつ仕上げた方が速いケースが多い。
作業が完全に標準化されるまでは、全工程を経験した上で、個別工程を細かく改善することが有効だからだ。
成長の原動力となるエンジンについても分析している。
囲い込みなどで離反率低下を重視する「粘着型」、SNSなど相手が使うから使わざるを得ないような「ウイルス型」、広告宣伝で拡大する「支出型」の3つに区分して考えている。
これらのエンジンを複合するより、一つに集中し個別検証を重ねることが大事だとしている。
感想・考察
タイトルには「スタートアップ」とあるが、大きな組織内でも革新的な事業を立ち上げるような「起業家」すべてに向けている。いや起業家でなくても、幅広く応用できる考え方だろう。
ざっくりいうと「すべて計画通りにはいかない。ちょっと作って試しながら進む方向を決めていこう」という話だ。
完璧に計画してから行動しようとしても、その先にあるモノが本当に求めているモノなのか分からない。まずは手を動かすことで「何ができるのか、何がしたいのか」が見えてくる。それはその通りだと思う。
個人レベルであれば取り組みやすいが、組織に導入するには、それに適したマネジメントが必要になる。そこが本書のポイントだ。
起業を考える人であれば一読する価値はあると思う。
『やり残した、さよならの宿題』 小川 晴央
下手くそでいいじゃない。
無様だっていいじゃない。
でもそれが。最高にかっこいいよ!
タイトル:やり残した、さよならの宿題
作者 :小川 晴央
タイムリープSF ★★★★☆
少年少女の物語 ★★★★☆
ラストどんでん返し ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★★☆
あらすじ
小学生の近江青斗は、両親の離婚で転校してしまう風間鈴に「最高の夏休み」をプレゼントしようと心に決める。
二人は神社で美大生の 小湊一花が倒れているのを見付けた。一花は「おばあちゃんにみせるため、この町の絵を描きたい」と言い、青斗と鈴は彼女に住み込みバイトができる民宿を紹介した。
鈴は一花の描く絵に感動し、この町を離れても思い出せるよう絵を描いてほしいとお願いする。一花は、鈴と青斗が手伝うことを条件に得ちまいの絵を鈴に描くことを約束した。
青斗と鈴が住む土岐波町には、時を操る「トキコさま」が時間を遡り合えなくなった人に合わせてくれるという伝説がある。夏の初めにはトキコさまを迎える「迎え火」、夏の終わりには「送り火」を上げる風習があった。
ところが今年の夏は「トキコさまの迎え火」を模した不審火が頻繁に発見される。
警察官である鈴の父は、身元の分からないよそ者である 一花に疑いの目を向ける。
感想・考察
何だか懐かしい夏休みの風景の中、子供時代を卒業していく切なさがある。
青斗が贈ろうとした「最高の夏休み」は、全然思い通りにならない惨めなモノだったけど、鈴へ深い思いが感じられる。
不完全に美しさを感じる一花が「あんたはかっこ悪い。だからこそ、かっこいい」というのが心にしみる。
時を司る「トキコさま」 が出てくる時点で「タイムリープもの」確定と思わせながら、いろいろ揺さぶってくる展開も面白い。
『広告コピーってこう書くんだ!読本』 谷山雅計
「強い普遍」は「平凡」そばにある。
広い間口から入っても、思考や仕上げを徹底的に深く追求するから「強い普遍」を作れる。
タイトル:広告コピーってこう書くんだ!読本
作者 :谷山雅計
役立ち度 ★★★★☆
分かりやすさ ★★★★☆
斬新さ ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★★☆
要約
広告コピーに限らず「言葉で人を動かす」ことを教えてくれる。人を動かす文章を書きたい人におススメの本だ。
面白いエピソードだと感じたのは、著者が手掛けたJR東海の「消えたかに道楽」キャンペーンでの「言いたいことを言わせる戦略」だ。
大阪道頓堀のかに道楽から「カニ看板」を外してしまい「JR東海CM出演中」と張り出した。ここで大阪人は「大阪はシャレの分かるオモロイ街や」とか「大阪商人はしっかりしとるわ」と言い評判が広がった。
大阪が「面白い」とか「しっかりしている」というのは、もともと思っていたことで、きっかけがあれば言いたいことだった。その背中を押すような広告だったから広がっていったと考えている。
「書き手の視点ではなく読み手の視点で考えること」。「情報の流通を意識すること」の好例だ。
また、刺さるコピーのポイントとして「常識以上 芸術未満」であることを挙げている。
たとえば「豆腐が白い」は当たり前すぎてインパクトがない。「この豆腐の白さは現代社会の不安を表象している」とかいうと訳が分からない。その間くらい、例えば「豆腐はたんぱく質が豊富な畑のステーキ」くらいであれば、当たり前じゃないけど分からなくもない。
「知っているけれど気にしていないことを、インパクトのある言い回しで意識に上げさせる」のが、ちょうどよい広告コピーだとする。
もうひとつ、全編にわたって著者が強調しているポイントとして、自分の発想や感覚を分析することを挙げている。
「なんかいいよね」という感覚的なレベルでは再現性を持たせることはできない。ある程度の水準以上のものを出し続けるためには「なぜそう感じたのか、なぜこれが良いと思うのか」を分析し考える必要がある。
感想・考察
とても分かりやすい。
著者は自分を「感性というガソリンは人並み以下だが、それを効率よく動かすエンジンである理論は、徹底して追求してきた」という。天才型ではなく努力型だと自分を規定しているのだろう。
「100本のコピーを書いて選ぶ」とか「感じたことを分析して再現性を持たせる」という、どちらかというと泥臭い戦い方を示している。
キレイな戦い方よりも、こういう地に足の着いたやり方に、親しみを感じる。
自分は天才型じゃないし努力も好きじゃないんだけど。。。
『君と時計と雛の嘘 第四幕』 綾崎隼
雛美の「嘘」に涙が止まらない。。
タイトル:君と時計と雨の雛 第三幕
作者 :綾崎隼
SF小説度 ★★★☆☆
恋愛小説度 ★★★★☆
ミステリ度 ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★★☆
あらすじ - ネタバレあり
「君と時計と塔の嘘」シリーズ第4幕。
10月10日の学園祭当日に「杵上綜士が織原芹愛の死を知る」、「鈴鹿雛美が古賀将成の死を知る」もしくは「織原芹愛が織原安奈の死を知る」ことでタイムリープが発生する。タイムリープを起こした人にとって大切な人が一人消えた状態で、時間が巻き戻される。
三人のタイムリーパーを救おうとしてくれていた 草薙千歳が、前作の最期のタイムリープで消えてしまう。
だが、千歳がこの時間線に残した手紙をみつけた綜士たちは「時間の復元力を使い、消えた人々を取り戻す方法」に気づく。
三人のタイムリープの原因となっているのは、5年前に雛美が平行世界からやって来たことによる「余剰の時間」だと考えた千歳は「雛美の存在がなかったことになれば、全てのタイムリープもなかったことになり、消えた人々も戻る」と推理していた。
綜士は、雛美の存在を「なかったこと」にはしたくないという思いと、家族や友達を取り戻したいという思いの間で葛藤していた。そんな中、雛美本人は「自分の存在を消すこと」を受け入れる。
タイムリープの回数制限を考えると最後となる周回で、綜士は雛美が付き続けた「嘘」の理由を知り、彼女の真の思いを受け取った。
決意が揺らぐ綜士を振りきり、雛美は自分を「いなかったこと」にしてしまう。
感想・考察
第1幕から張られた伏線がきれいに回収され、納得いく結末になっている。
最終巻ではSF的な展開は大雑把になってしまったが、ゴリゴリの恋愛ものとして泣かせる話に仕上がっていた。
雛美の「嘘」を紐解く最後の部分は泣かせに来てる。。
全4幕と結構長い物語だが、一気に読み切ってしまった。引き込まれる話。
『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』 坪田信貴
いま、この本を読んでいただいた方に伝えたいです。
「頑張る」って意外といいもんでした。
タイトル:学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話
作者 :坪田信貴
ギャルの成長物語 ★★★★☆
勉強方法指南 ★★★☆☆
家族の物語 ★★★☆☆
総合オススメ度 ★★★☆☆
要約
高校2年の夏休みまで偏差値30以下だった「さやかちゃん」が、1年半で急激に学力を向上させ、慶応大学総合政策に合格した実話に基づく物語。
半分は さやかちゃんの精神的な成長や、周囲との関係の変化など、内面的な話で、残り半分は、お勧めの学習法や参考書など、具体的な受験勉強アドバイスで構成されている。
後にさやかちゃんはギャル時代を振り返り、友人との強い絆に満足しながらも「自分には何もないってことがわかっていて、このまま社会に放り出されたらどうなるか不安だった」と語る。
そんな中、著者である塾講師坪田先生に出会い、「自分を肯定してくれる」大人もいるのだと感じ、興味本位で勉強に取り組み始めた。
物語的に「盛ってる」のだとは思うが、当時の「モノを知らない度」はすさまじかったようだが、徐々に本気になっていったさやかちゃんは、30以下だった偏差値を70以上にまで急伸させる。
学校の教師にも「慶応など無理だ」と断言されるが、全面的に応援してくれる母や、「さやかが慶應とかウケるww」と言いながら支援してくれる友人にも支えられ、1年半をアドレナリン全開で走り抜けた。
さやかちゃんのストーリーとは別に、英語・小論文・日本史の勉強方法や、学習指導に役立つ心理学的知識も紹介している。
感想・考察
数年前にちょっと話題になった本がKindle無料になっていた(2020年3月22日現在)ので読んでみた。
何かを学ぶにも、そのベースがないと学べない。さかのぼって学ぶことになるが、そこで中途半端なプライドは邪魔になってしまう。
さやかちゃんは「臆さず」に自分の考えを主張するし、分からなければ調べる姿勢があった。これが伸びる素質だったのだろう。「おバカ回答担当タレント」のように、自分自身で「ウケるw」と思ってやっているのだろうが、自分を客観視して笑い飛ばせるのが「強さ」なのだと思う。
塾講師である著者の指導方法が「ハマった」のもあるのだろう。
さやかちゃんの「ウケるw」に乗っかって面白がる姿勢だとか、折れそうになった時に支えられるだけの信頼感を醸成したりとか。
勉強法の理論もあるのだろうが、「ハート」の部分で相性が合ったのが大きかったのだと感じる。
それにしても映画「ビリギャル」の有村架純は完璧にかわいい。