『図解 科学捜査』 山崎昭
現代の犯罪科学捜査の状況を解説する本です。
ミステリ好きの人、完全犯罪を計画している人におススメです!
タイトル
図解 科学捜査
作者
山崎昭
あらすじ・概要
- 死体から何が分かるか
変死体を発見すると、まずは病死・自殺・他殺を見極める。日本の場合、異状死体のうち法医解剖が行われたのは11%程度と諸外国に比べ低い。
・頭部の傷:打撃の角度や銃創の大きさなどで自殺の可能性を排除できる。
・目:窒息の場合結膜に出血点が見られる。
・首:扼殺・絞殺の場合は特定の痕跡が見られる。
・手や指:犯人と争った場合、防御創ができる。
・性器:強姦などの有無が確認できる。
・皮膚の色:毒物や窒息などで特定の色が見られる。
・足と足首:晴れている場合心不全などの心臓疾患が考えられる。
また、密室、争った様子、遺書などが自殺判断のポイントとなる。
- 死亡推定時刻
・体温:外気温によるが、10時間までは1℃/時、それ以降は0.5℃/時で低下する。
・角膜:死後6時間で混濁が始まる。1~2日ごに強い混濁。
・死後硬直:死後12~15時間で硬くなり2日くらいで解ける。
・食物:胃腸の消化状況で時間が推定できる。
・死斑:死後30分ほどで現れ、12時間くらいで完成する。
・白骨化:地上で約1年、地中では3~4年で白骨化する。
- 白骨死体からの身元確認
頭蓋骨や骨盤の形状で男女の見極め、頭蓋骨の状態で年齢の見極め、大腿骨の大きさから身長が推計される。
- 頭蓋骨から顔の復元
近年では「3Dスーパーインポーズ法」を使い、白骨死体から生前の顔の特徴を復元することができる。
- 科学捜査機関
通常は都道府県警察の「鑑識課」や証拠鑑定を行い、高度なものは「科学捜査研究所」が行う。更に大規模な調査は警視庁の「科学警察研究所」が行う。
- 指紋鑑定
指紋は「万人不同」で「終生不変」なため、証拠として使われている。指紋の形状パターンが12か所一致すれば同じと判定している。粉末法や液体法など検出方法は数多く、最近では人体に着いた指紋も採取可能。
- DNA鑑定
DNAも諮問と同じく「万人不同」かつ「終生不変」であり証拠として使われる。髪の毛一本でも採取可能。最近の技術では十数年前の証拠からも鑑定が可能で、過去の裁判の再鑑定が行われるケースも出ている。
- 防犯カメラと画像認識
イギリスは一人当たりの監視カメラ台数が世界最大。アメリカでは州を越えて情報共有ができるシステムを開発。中国ではAIによる顔認証や歩き方認証で個人特定が可能なレベルに達している。
変装や整形などでも骨格を変えることはできず、顔の特徴点は変えられない。
- 遺留品の分析
血痕、体液、髪の毛などからDNA採取し個人を特定することが可能になっている。衣服の繊維や足跡鑑定なども精度が上がってきている。
- 筆跡鑑定
筆圧や筆順、書き始めや方向の変化、止めの特徴、「へん」と「つくり」のバランス、配列の特徴などから鑑定する。現在では80%以上はコンピュータによる解析。マイクロスコープによるインクの方向確認などで上書きや書き足しなども判定できる。
- 声紋鑑定
10秒間で12か所ほどの特徴点が一致すれば同一人物と判断できる。ボイスチェンジャーで声を変えていても判定可能。しゃべり方の特徴や背景音も重要な捜査資料となる。
- 交通事故
タイヤ痕、塗膜片、ガラス片などの情報はデータベース化されており、事故車の闘争はほぼ不可能。
- 火災
出火場所を特定し火災原因を特定、放火の可能性などを探る。出火場所・出口と死体の位置関係から事故死と自殺を判断されることもある。
感想・考察
犯罪捜査に関する科学技術は日進月歩だ。本気で調査されたら僅かな痕跡からでも犯人は特定できるのだろう。
一方で本格的な科学捜査にまで至る可能性自体は高くない。
日本で届が出ているだけでも年間8万人以上の失踪者がいるが、長期に渡って行方不明でも死体が見つからなければ本格的な捜査は行われない可能性が高い。
また死体が見つかっても、9割近くは法医解剖に回されることなく、病死・事故死として処理されている。
ミステリ小説にあるように、事件現場で偽装工作をしたりアリバイトリックを弄するのはほぼ無駄で「事件があったこと自体の発覚を防ぐ」のが第一、それが無理なら「自殺や事故死に見えるようにし、科学捜査に踏み込ませない」のが次善の策ということだろう。
いつか完全犯罪を計画するときには役に立つかも。。
『ねこつくりの宮』 高山環
とりあえず「ねこ鍋」画像を検索しました。可愛くて癒されます!
哀しみに囚われたとき、隣にいてくれる暖かい存在には本当に救われます。温もりは必要不可欠なものなのでしょう。
それでも人は、何か足りない満たされない思いを抱えて生きていきます。
自分の生きる意味を探し、何かを犠牲にしながらでも足掻き立ち向かっていくことで、哀しみを癒すのではなく、哀しみと共存しながら生きていくしかないのでしょう。
そんな寂しさと強さを感じさせる話でした。
タイトル
ねこつくりの宮
作者
高山環
あらすじ・概要
祖母が亡くなり身寄りのいなくなったサナは、いるか岬を訪れてネリとヒカリと3人での暮らしを始る。ネリとヒカリは「ねこつくりの宮」として「哀しみを癒すための猫」を求める人に渡していた。
サナもヒカリと一緒に希望者から聞き取りする仕事を始める。最初は勝手の分からないサナだったが徐々に仕事の内容を理解し、やがてヒカリにもできなかった「ねこつくり」を成功させる。
やがてヒカリがいるか岬を去った後もサナは経験を積み、いつか「自分の目的」を果たすことを考える。
やがて、いるか岬から見える御山に不穏な兆候が表れ始める。「ねこつくりの宮」のネリは、「いぬつかいの里」のタブ、神社の宮司と共に、御山から力をもらい御山を守護する存在だった。
感想・考察
歴史小説好きでちょっと語彙がおかしいサナ、ポリスやポリシーが嫌いなヒカリ、歳のわりに健啖家のネリ、いるか岬での3人の暮らしは暖かいがどこか物悲しい。
やがてサナは、人生は自分の選択の積み重ねであることを学び、哀しみは不可避であることを知る。サナの強さに勇気づけられる感じだ。
『カササギ殺人事件』上・下 アンソニー・ホロヴィッツ
「カササギ殺人事件」という小説内の1950年代の世界と、その小説の編集者周辺の現実世界が重なり合う、二重構造のミステリです。
伏線とミスリードが散りばめられた正統派ミステリでありながら、二つの世界のリンクが面白い仕掛けになっています。
翻訳も素晴らしいです。
翻訳ものミステリは誰が何を言っているのか分からなくなりがちですが、本作は登場人物が多く、名前にも仕掛けがあって混乱しやすく、二重構造のストーリーも複雑なのに、すんなりと頭に入ってきました。翻訳の力量が相当高いのでしょう。
アナグラムを始めとした言葉遊びは難しかったと思うが、それでも破綻することなく理解できるように伝えています。
ミステリ作品の翻訳家というのは面白そうな仕事ですね。
タイトル
カササギ殺人事件
作者
アンソニー・ホロヴィッツ著
山田 蘭 訳
あらすじ・概要
女性編集者のスーザン・ライランドが、アラン・コンウェイから送られた新作ミステリの原稿を読み始めるところから物語は始まる。
上巻はアランの作品「カササギ殺人事件」の中の世界。
1950年代のイギリスの田舎町で家政婦メアリが階段から転落して死亡する事件が起きた。メアリと息子のロバートが自己の数日前に口論しており、ロバートによる殺人なのではないかと疑う村人もいた。ロバートの婚約者ジョイは彼の容疑を晴らすため名探偵アティカス・ピュントを訪れるが、アティカスは末期脳腫瘍もあり断ってしまう。
その数日後、メアリの雇い主だったマグナスが殺される事件が起きる。ジョイの依頼を断ったことを気にしていたアティカスは現場に乗り込み、最後の事件として解決に乗り出した。
メアリは村人の秘密を嗅ぎまわっていて誰かの恨みを買っていた可能性があった。彼女の死は事故なのか何者かに殺されたのか。マグナスも傍若無人な振る舞いで周囲から嫌われ、村人の多くが動機を持っていた。
アティカスが犯人に気づき、解決編に入る直前で上巻は終わる。
下巻でスーザンは「カササギ殺人事件」の最期の部分が抜けていることに気が付く。そしてその夜、作者のアランが死んだことを知る。
スーザンの上司で出版社社長のチャールズ当てにアランから、末期のがんを患っていたことを伝え、自殺を仄めかす手紙が届いていた。
スーザンは「カササギ殺人事件」の結末部を求めアランの家を訪れるが、そこで周囲の人の話を聞き、彼は殺されたのだという確信を深め、自ら捜査に乗り出した。
小説内のマグナスと同じく、アランを殺す動機を持つ者も数多く調査は混乱したが、最後に「カササギ殺人事件」の謎と現実世界の事件が同時に解決される。
感想・考察
作中作の「カササギ殺人事件」はアガサ・クリスティーのオマージュのような、1950年代の古風なミステリだ。現代を舞台とした下巻もミステリとしては古典的な展開だが、二つの世界がリンクし、現実世界の事件の鍵が小説内にあるという仕掛けは面白い。アナグラムや言葉遊びの部分は翻訳で完全に理解することはできないが訳者の力量もありそれなりに楽しめた。
上下巻でそれなりの長さになるが、作品世界の雰囲気に浸る楽しさがあった。
『コーチングのプロが教える 「また話したい」と思ってもらえる会話術』 滝井いづみ
著者のコーチングでの経験を活かして、「いい人会話」の実践を提唱しています。
コミュニケーションには色々な目的がありますが、本書はまず日常会話のレベルで相手と良い関係を築き、この人と話をしたいと感じてもらう方法を語っています。
タイトル
コーチングのプロが教える 「また話したい」と思ってもらえる会話術
作者
滝井いづみ
あらすじ・概要
1.好感度を上げる会話とは
- 相手がに気持ちよく語ってもらう会話術「いい人会話」
「いい人会話」は相手のための会話術。基本的には「聞く側」に回り、相手が思考を整理しアウトプットすることを助ける。
人は根本的に親和欲求を持っており「話を聞いてもらえた」だけでも「自己重要感」を持つことができる
相手の思考の整理を助け、親和欲求を満たすのが「いい人会話」
- 日常会話のブラッシュアップ
意識して日常会話に、未来について考えるなど「質の良い会話」を混ぜ、「考える機会」を増やす。その場で結論を出そうとはせず考えるきっかけになればいい。
- 相手が元気になるメカニズム
アウトプットで思考が明確化し、自分で気づくことができる。自分で気づくと「やらされ感」のない行動が生まれる。
話を聞く側が「こうしなさい」という指示をすると相手は自分で考えなくなる。
- 「いい人会話」のマインド
普段近くにいる人が「いい人会話」を意識し話を聞いてくれるなら、プロから数セッションのコーチングを受けるよりも大きな効果がある。
「いい人会話」は相手へのギフトであり相手への愛情と信頼がベースになる。相手をコントロールしよう、優位に立とう、という思いは必ず見抜かれてしまう。
2.相手が話してくれる聞き方
- あなたは話しやすい人か
話を横取りしたり、アドバイスされたり、根掘り葉掘り聞かれたり、相手を誘導しようとしたり、毎回重い会話をしたりすると「話しにくい人」として避けられてしまう。次に自分が話すことを考えながら聞いたり、前のめりに聞き出そうとしてしまったり、自分の言葉に言い換えたり、自分の価値観に照らして話を聞いたり、話に結論を求めるのも良くない。
まず「コミュニケーションは質より量」なので頻度を増やし、安心して話してもらうベースを作ることが大事。
- 傾聴
深く聴くことを心がける。
ポジティブ/ネガティブ、自責/他責。近視眼/俯瞰 など相手の傾向を把握することは役に立つが、先入観にも繋がるので注意が必要。
逆に「相手の思い込み」をポジティブな言葉で言い換え、認識を変える「リフレーミング」は有効。
- 聞き上手のポイント
座る位置は90度がベスト。それが難しくてもパーソナルスペースを侵さないように気を付ける。適切な相槌は会話に必要。会話のペースや声のトーンも相手に合わせると良い。沈黙を恐れず相手に考える時間を与えた方が良い。
話題をヨコに広げる「それから?」と、タテに深める「それはどういうこと?」という方向性がある。「いい人会話」ではヨコへ広げるのがメインだが時にはタテに深める質問をしてみても良い。
- 聞く能力を上げるために
まずは相手への関心度を上げる。ジェスチャや目線など言語外のメッセージにも気づくことができるようになり、言葉とは違う本音に気づくことに繋がる。
アドバイスは必要ない。「答えは相手の中にある」というのが大前提。
自分の「フィルター」はかけない。実際には難しいが「自分の判断のフィルタが有る」ことを認識するだけでも違う。
時には自分でもプロのコーチングを利用するなど「聞いてもらう」ことの快感を味わうのも有効。
3.相手が満足してくれる受け止め方
- 「話を聞いてもらえた」と思われるコツ
人には承認欲求がある。自分の価値観と違う相手の意見を「受け入れる」必要はないが、「受け止める」ことで相手は承認されたと感じることができる。
- 受け止めたことを伝える言い回し
頷きや、相手の言葉を繰り返すリフレインは「伝わってますよ」というメッセージになる。
- 相手にフィードバックする場合
「いい人会話」では相手の良い面を探して返す。仕事などでは悪い点を指摘する必要もあるが、専門的なフィードバックのスキルを学ぶ必要がある。
相手の良いところを見つけ、相手を主語にしたYouメッセージでなく、私がどう感じたかを伝える Iメッセージとして、その良い点を伝える。
4.相手が考えてくれる質問の仕方
- 良い質問で相手に気づきが生まれる
言語化して初めて自分の思いに気が付くこともある。コーチングの質問は相手に気づきを促すための質問。
- ついやりがちな質問
言葉の選び方で責める感じになると、相手は防御的になってしまう。
「何でそんなことをしたんだ?」では「あなたは何故そうしたのか」と個人を責める質問と取られてしまうが、「何が原因でそうなったんだ?」であれば外的な原因を追究していることになる。
日常会話では必ずしも相手の質問に答える義務はない。答えを強要するのは良くない。また回答を予測してコントロールするような質問も良くない。
いきなり抽象度の高い質問をしても答えにくいので、最初はハイ・イイエで答えられるクローズド・クエスチョンから入るのも良い。
- 「いい人会話」で内側からやる気を喚起する
「答えは相手の中にある」のが大前提。適切な質問で相手の思考を整理し、選択肢を絞ることができれば、相手の自発的な行動につながる。
また普段あまり考えない「未来のこと」について水を向けてあげるのも良い。
日常会話のレベルでは相手の発言に「コミット」を求めてはいけない。軽い気持ちで「やってみようかな」と言えることが大事。
5.シーン別「いい人会話例」
- 「いい人会話」のコツ
一緒にいる時間を楽しみ、相手を信頼し、相手を応援する気持ちを持つことが前提。
- オフィス
忙しいオーラを出さない、話を最後まで聞く、思い込みを持たずに聞く、等を心がけることで相互に自立した動きができるようになる。指示を
- 家庭
家族観では身内ゆえの期待が入りやすく、コーチングはしにくい。相手の自立を促すためには自分の評価を伝えるのではなく「事実の提示+一緒に考える」のが良い。
- 友人、恋人
元気が無い時、決断に悩んでいる時に「いい人会話」が役に立つこともある。
6.実りの多い日常会話にする工夫
- 「いい人会話」が難しい時
相手の愚痴などは受け止め続けると疲れてしまう。受け止めつつも自分のこととして受け入れる必要はない。あまりにも愚痴を繰り返す人とは距離をおいても良い。
- アサーティブコミュニケーション
相手もOK、自分もOKというのがアサーティブ・コミュニケーション。
「いい人会話」では聞くことがメインだが、自分の意見を出したいときは「私はこう思う」というIメッセージで伝える。またあくまで選択権は相手にあると認識する。
- 心理学で理解する
本書はアドラーの「自己決定性」をベースにしている。行動は自分で選択できるという考え方。
感想・考察
「いい人会話」と聞くと、八方美人的な主体性のない話し方を思い浮かべてしまうが、本書でいうのは「まずは相手の話を受け止め、相手自身の理解・気づきを助ける」という「ギフト」を最初に贈るということだ。
コミュニケーションで相手を動かすことはできない。ただ相手に動いてもらうことはできる。
相手に自己重要感を持ってもらい、思考を整理してもらうことで、相手の自発的な行動を呼び起こすのが目的で、その自発的な行動が自分のためになるかどうかを考えない、利他的な会話だ。
ビジネスなどでは個人の感情の外にある利害関係が人を動かすことはあるにしても、その根底にあるのはやはり一対一の個人の関係だろう。
『跡継ぎの条件』 恩田陸
恩田陸さんのごく短い作品です。
ちょっとしたホラーっぽいのですが、怖いというより不思議な雰囲気のある話でした。
タイトル
跡継ぎの条件
作者
恩田陸
あらすじ・概要
高校時代の友人たち老舗居酒屋に集まる。早い時間だったが人気店でほぼ満席だった。現在の店主は三代目だったが、店の跡継ぎになるには一つだけ条件が課せられるという。
初代店主のころ、決まった時間、決まった席に座る常連がいたが、ある日事故で急死してしまった。それからというもの、その常連がいた時間、その席に座る客は、体調を崩したり気味の悪いことが起きていた。
そこで初代店主は、その時間その席を空けておくことを次世代の店主に課していった。
感想・考察
恩田陸さんの作品では「蜜蜂と遠雷」の様に明るくさわやかな話が好きだが、その幅広さも魅力だと思う。
恩田さんの手掛けるジャンルは結構幅広い。ホラー系や不思議系などそれぞれずいぶん違う印象を受ける。あらためて多才であると感じた。
『犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー―探偵AI 2―』 早坂吝
「探偵AIのリアル・ディープラーニング」 の続編です。
探偵AIである相以と、そのシミュレーション相手として作られた犯人AIの以相が再び対決します。今回は相似と様々なAIが登場し「個性」が描かれています。
タイトル
犯人IAのインテリジェンス・アンプリファー―探偵AI 2―
作者
早坂吝
あらすじ・概要
前作「探偵AIのリアル・ディープラーニング」で、合尾輔(あいお・たすく)は父の遺作である探偵AIの相以(あい)と事件を解決し「AI探偵事務所」を開設した。
日本初の女性総理大臣である右龍都子(うりゅう・みやこ) には、公安警察で働く司法(かずのり)、与党議員の立法(たつのり)、外務省官僚の行政(ゆきまさ) の三つ子の息子がいた。
立法はAIに警察業務の一部を行わせる法案を進めており、テストケースとして相以たちに事件捜査に関わることを依頼する。相以と輔たちは早速、長崎県壱岐島で漁業組合会長が殺された事件の調査に向かった。
凶器と思われる斧や周辺に落ちていた硬貨には、対馬にゴムボートで漂着した死体の指紋が残っていた。さらにその死体は韓国を訪問していた右龍行政だったことが判明する。行政の妻と7歳の息子も
更には右龍司法も長崎県警公安に異動しており、その時期に対馬にいたことが判明した。
犯人AIの以相は、相以たちに「今回の事件、私は右龍と協力して3人を殺す」と宣言した。以相はどの「右龍」と協力するのか、そして3人のターゲットは誰なのか。
感想・考察
探偵AIが「人はどのように動くのか」を考えるのに対し、「実行犯」が必要な犯人AIは「人間をどのように動かすか」を考える。
人の知能を代替する AI (Artificial Intelligence) と、人の知能を拡張する IA (Intelligence Amplification)は排他的ではないが、それぞれの人間に対するアプローチで「個性」が出てくるというのは面白い。
前作では「人間と人工知能を隔てる壁」について語られ「表象されたものに注目すれば人工知能にも人格を感じられるよね」という話だった。
それに対し今作は「ある程度人工知能が普及した後の段階」を考え「マシンスペックや使われ方や育てられ方で、人工知能にも個性がでてくるのだろうな」という展開なっている。
前作では「自分を人間だと思っているAI」が出てきたが、 本作での様々なAI達との対比も面白い。
ミステリとしてのオチは早坂さんらしく「反則気味」なところはあるけれど、楽しめる作品だった。
『さらば愛しき魔法使い』 東川 篤哉
「魔法使いは完全犯罪の夢を見るか」「魔法使いと刑事たちの夏」に続く、魔法少女シリーズ第3弾です。
魔法少女マリィ、M気の強い総介、美熟女警部椿木たち、個性の強いキャラたちの掛け合いの面白さ、魔法という反則技を使っても倒叙ミステリとしてきっちり成立させている手腕が素晴らしい作品です。
中途半端な終わり方になっているので次回作が気になります。
続きをお待ちしております。
タイトル
さらば愛しき魔法使い
作者
東川 篤哉
あらすじ・概要
- 魔法使いと偽りのドライブ
弁護士として働く岡田英明は、建築会社社長の殺害を計画していた。社長夫人と共謀し、英明とそっくりな腹違いの弟とドライブをさせてアリバイを偽装し、英明自ら社長宅に赴いて殺害した。
社長の死で利益を得る夫人にも、英明にもアリバイがあることから捜査は難航していたが、マリィの「嘘を付くと車が壊れる魔法」で英明の犯行であることが判明する。
聡介は、社長夫人と英明のアリバイ工作を暴いていく。
- 魔法使いと聖夜の贈り物
マリィのと聡介はクリスマス前のショッピングモールで買い物をしていた。マリィには「欲しいモノ」があるという。
出版社社長の娘との縁談がもちあがった映画評論家の西脇雅也は、邪魔になった恋人を自宅に招き入れ殺害した。西脇は被害者に付きまとっていたストーカーの家に彼女のカバンを投げ入れるという偽装工作を行った。
警察はストーカーによる犯行として捜査を進めていたが、マリィが魔法をかけたグラスでワインを飲んだ西脇は犯行を自供する。
聡介は被害者がクリスマスのプレゼントとして用意していた本を糸口に、西脇の偽装を暴いていく。
聡介は、捜査を助け命の危機も救ってくれたマリィに「欲しかったものをプレゼントする」ことを約束する。
- 魔法使いと血文字の罠
正月早々、殿村淳史は叔父の家を訪れ、経営するバーへの援助を申し入れるが言下に拒否される。淳史は保険金目当てに叔父を殺害し、物取りの犯行に見えるよう工作した。部屋を離れるときアイロン台に血文字で「ア」と書かれていることに気づき、自分に疑いが来ないようトラブルのあった隣家の「アリタ」となるよう書き足した。
初詣で神社に訪れた淳史は、マリィが魔法をかけた神社の鈴の紐に触れ、犯行を自白する。
聡介はアイロン台のダイイングメッセージに秘められた謎を真犯人に突き付けた。
聡介のクズっぷりが光る。
- 魔法使いとバリスタの企み
オカルト雑誌「マー」の記者が「魔法使いを見た」という情報を得て聡介宅付近を探っていた。聡介はマリィに外で魔法を使わないよう念を押す。
バリスタの波佐間健二は、大手飲料会社の役員である妻の親戚の協力を得て、自分の名前の入った缶コーヒーを売り出すこととなった。
自分の喫茶店の店員でもある不倫相手が、妻の不在中に自宅に押し掛け、離婚し結婚することを求めてきたため、うろたえ勢いで殺害してしまう。
波佐間は、被害者に好意を寄せていた喫茶店の常連に疑いを向ける工作をした。外で魔法を使うことを禁じられていたマリィだが、聡介を助けるため常連客に魔法をかけ、彼が無実であることを証明する。
聡介は波佐間に疑いの目を向け、彼の発言の矛盾をついていく。
数日後、マリィの姿が「マー」に掲載され、マリィは忽然と姿を消してしまった。
感想・考察
読者には最初から犯人が分かっているし、魔法の力で刑事も早い段階で犯人が分かっている。そこから犯人の発言の矛盾や物理的な証拠を探していく正統派の倒叙ミステリだ。
イロモノ感のあるキャラを使ったり、ミステリでは反則気味の魔法を取り入れ、コメディ感を強めながら、ミステリとしてはきちんと構成されているのは素晴らしい。「謎解きはディナーのあとで」とかコメディー色の強いミステリを手掛けてきただけある。
第3作となる本書では、マリィと聡介の恋愛ストーリーが急に進展していくが、最終話で唐突にマリィが消えてしまう。
さすがに中途半端感があるので、次回作で続きが見られることを期待したい。