毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

革命のファンファーレ 現代のお金と広告

著者が、絵本「えんとつ町のプペル」を売り出したプロジェクトを元に、新しいモノの売り方を提唱する本です。

内容自体も良いけれど、無味乾燥になりがちなビジネス書を、ここまで分かりやすく面白くする技術が素晴らしいです。

芸人さんは、「伝えること」のプロフェッショナルなんですね。

 

【作者】

西野 亮廣

 

【あらすじ・概要】

絵本「えんとつ町のプペル」を売り出した経験をもとに、新しい時代のビジネス手法について述べる。

 

・職業に寿命がある

十数年前まで職業がアイデンティティの一部となっていたが、仕事自体がなくなる速度が上がっている現代では、やりたいことを掛け持ちするという選択肢が有効だ。また、面倒な仕事はどんどん機械に置き換えられており、好きなことを仕事化する以外の道がなくなる

 

・作り方から作る

絵本は発行部数が少なく分業で作れる市場ではなかった。より良いものを分業で作るため、まずは「資金調達」から取り組んだ。作り方を疑うという作業から始める

 

・「お金」は「信用の数値化」

絵本の資金をクラウドファンディングで調達した。クラウドファンディングは信用をお金に変える装置。嘘をつかないことを徹底して信用の獲得を目指した。

 

・意思決定は「脳」ではなく「環境」が重要

芸能人の場合、広告ビジネスは好感度依存なので嘘をつかざるを得ない。ダイレクト課金してくれるコミュニティという環境を持てば、嘘をつく必要がなくなる。

 

・無料公開の効用とマネタイズのタイミング

目先の収支に囚われず、支援者を増やすことを先行し、後から収支を合わせる。

 

テレビの広告ビジネスにしても、Google検索や Twitter などにしても、入り口ではお金を取らず、後からマネタイズする。価値あるものを無料提供することで、ファンが生まれ、後からお金がついてくる

インターネットにより物理的制限がなくなり、低コストでロングテールにリーチできるようになった。数百人・数千人に一人が課金するようなビジネスでもペイさせることができる。

 

・著作権は必要か

市場規模が十分大きければ、著作権の保護がなくてもユーザ数が多いこと自体が信用価値を生むこともあり得る。著作権保護が必要かどうかを、自分のビジネスに合わせ個別に考える必要がある。

 

・セカンドクリエイターを味方につける

「えんとつ町のプペル光る絵本展の開催権利」をクラウドファンディングのリターンとした。支援者が自ら絵本展を運営することで広告の連鎖が自然発生した。

 

・ニュースを出さずにニュースになる

自分の時間は限られているので人の時間を使うことを考える。情報の出し方を考え、ニュースとして自ら伝わるようにしていく。

 

・踏み出す勇気より「情報」

 知らない場所に一歩踏み出すのに必要なのは「勇気」ではない。子供が初めて電車に乗るときは怖いが、乗り方を理解してしまえばなんともない。未経験に踏み込んでいくためには情報が必要

  

【感想・考察】

いわゆる「タレント本」で正直あまり期待しないで読んだが、自分の経験をベースにした具体的な話で実に面白い。またビジネス論として斬新な切り口も多く思いのほか有益だった。

ビジネスの話をここまで面白く伝える能力には感服する。

文句なしに面白い本だった。

 

【オススメ度】

★★★★☆

 

 

壇蜜日記

タイトルの通り壇蜜さんの日記です。

きれいな文章で、壇蜜さんの鋭さと優しさを感じます。

壇蜜さんのことはあまり知りませんでしたが、好感度が上がりました。

 

【作者】

壇蜜

 

【あらすじ・概要】

本書のような日記から「あらすじ」を抜き出すことはできないので、気に入ったフレーズをいくつか抜き出してみる。

 

 

どうせ 生き て いる こと で 誰 かに 恨ま れ、 消費 し、 さ れる 人生、 小金 くらい 稼い でも バチ は あたる まい。

自分自身を消費期限付きの商品とみる現実主義と、周囲から受け入れないことを極度に怖れる弱さが見える。

 

ファンやスタッフの意向に寄り添うことが、いまの私にできること。

本書を読んでいても、読者が自分に何を求めているのかを理解し応えているのがよく分かる。常に相手の視線を意識し続けるのは生き辛いだろうと思う。

 

自分 の 一番 を 公言 する と どうしても 他 に 好き な モノ の 話 が 出来 ない のが 申し訳 ない し、 しらける 元 に なる。

感覚がよく分かる。誰かの視点を意識して生きることの息苦しさだ。

 

シーフードヌードルにタバスコとレモン汁を少々加えるとトムヤンクン味になる。

いやいや、これはダメだ。。

 

8 歳 の 女児 からの 手紙 には 質問 が 書か れ て い た。 年 は 33 歳、 すき な 色 は 灰色、 休み の 日 は ひたすら 眠っ て 自分 と 折り合い を つけ、 毛 の 無い ネコ を 飼っ てる よ。 なん か、 ごめん。

リズム感があり、とても美しい。名文だ。

 

鶏 中華 麵 は トマト ジュース を お湯 で 割っ て 沸 とう さ せ た もの で 煮る。 ドン ブリ に あけ、 とろける チーズ を のせ て 食す。

残念ながら食の好みは絶望的に合わないようだ。

 

新聞 は 読ん で いる が 興味 の ある こと しか 読ま ない ため、 テレビ の ニュース から 得 た 知識 の ほう が 新鮮 という 現状 は 変わら ない よう な 気 が する。 しかし、 紙 を 読む 時間 は 贅沢 だ。

メディア全方位に気遣いができる大人の対応だ。

 

大人 に なる と 子供 の 頃 よりも 一年 が 早く 過ぎ て ゆく よう に 思う のは、 物事 の 進み に 手こずら なく なっ た のも 大きい が、 昼 ぐらい から「 も ー 今日 は 終わり だ わな」 と 今日 を 見限っ て やり過ごせる よう に なっ た から かも しれ ない。

これはとてもよく分かる。適当に一日を流してしまうのは本当に勿体ない。

 

テレビ 番組 に 出 て い なけれ ば「 消え た」 と 言わ れ、 出る と「 飽き た」 と 言わ れる よう だ。 水槽 の 掃除 でも する か。

「水槽の掃除でもするか」の落とし方が、バブル期のエッセイを思わせる。

 

何処 の 世界 でも 何 かが 無くなっ て た として も、 必ず その 代わり は いる。 代わり の 無い もの で あり たい と 願っ た が それ は 無理 な 話 だ し、 そう 考える 事 は おごり だ と 思う よう に なっ て 随分 経っ た。

自分は自分自身にとってだけ、代替不能な存在だ。

 

 

【感想・考察】

とても「スタイリッシュ」な文体だ。

下世話な話を上品に語ってみたり、格好良いことを述べた後はベタな落ちをつけたり「バブル時代のサブカル系」を感じさせるような文章はとても好きだ。

壇蜜という女優はほとんど知らなかったが興味がわいてきた。

 

【オススメ度】

★★★☆☆

 

 

少年と木

 大人向けの童話です。

夢の中で子供の頃を追体験するように、あの頃の「公園」を思い出す作品でした。

 

【作者】

高山環

 

【あらすじ・概要】

 母親と公園にきていた5歳のぼくは、見知らぬ少年に導かれ、いつもとは違う公園に辿り着く。

少年はぼくに「公園は誰でも入れるし、好きな時に誰でも出ていける。誰も決してそこにはとどまれない。公園はいつか出ていく場所だ」と告げる。

公園の中にあるトンネルに入った少年をぼくも追う。暗闇の中で恐怖するぼくに少年は「暗闇には何もいない。暗闇に何かを作り出すのは君自身だ。想像する力は大事だけど、時に想像力は要らないものも作り出してしまう」といい「背筋を伸ばして、一歩ずつ進む、勇気が必要だ」とほほ笑む。

少年はトンネルを抜けた先にあるライオン像の口から、オレンジ色に光るクルミを鳥だしぼくに渡した。

 

小学校に入ったぼくは、その小さな世界にある暴力や嘘に驚くが、クルミの光をみて穏やかさを取り戻していた。

 

ぼくが10歳の頃、サッカーを覚えて心と体が強くなり、一度遅れた勉強にも必死で追いつく。それでも母親との距離を感じたぼくは、クルミが光を喪っていることに気づき、またあの時の公園を目指す。

辿り着いた公園でトンネルを抜けたが、少年はそこにはいなかった。少年に会いたい思いを込め振り向くと、そこに一本の木を見つける。ぼくは、かつては少年だったその木にクルミのお礼を言い、まだ力が必要だとお願いをする。木はぼくに青い光を放つクルミをくれた。

 

小学校卒業を控えた12歳の頃、ぼくはサッカークラブのキャプテンとして自信をつけ始めたが、将来に不安を感じ、自らの内側に生じた恋心に戸惑っていた。

そんな時に一羽の鳩が白い木の枝をぼくの元に届ける。この枝は少年がぼくに託したメッセージだと気付いたぼくは、三度あの公園に向かう。

公園では、しゃべるカメに枝を食べられてしまうが、カメの口のトンネルを通ってかつて少年だった木の元に辿り着く。

大きく成長していた木の前に立ち、ぼくはクルミを返す。

 

 

【感想・考察】

 高山環さんというのは、実にたくさんの引出を持った作家だ。

社会的な問題を取り上げたミステリ・サスペンスから、少年少女の内面の葛藤を描くような童話まで幅広く、どれもクオリティが高い。

 

本作での「ぼく」は、強くたくましい少年なのだと思う。それでも世界に対峙していくためには、拠り所が必要なのだろう。

拠り所としての「公園」はぼくに力を与えてくれるけれど、いつかは旅立たなければならない。闇を恐れない勇気を身につけなければならない。

でも、既に「公園」から離れた大人たちも、時には少し立ち寄ってみるのも悪くはないと思う。

 

 

【オススメ度】

 ★★★★☆

 

 

ポスト平成のキャリア戦略

「ハングリー & ノーブル であれ!」というメッセージ。

 News Picksに参加するジャーナリストの佐々木氏とAIなどを手掛ける実業家の塩野氏による対談方式で、幅広いビジネスの話題を取り上げながら、これからのキャリア戦略について語っています。

 

【作者】

塩野誠、佐々木紀彦

 

【あらすじ・概要】

キャリア戦略について「昭和モデル」「平成モデル」が崩壊した現在、どのような戦略を取るべきなのかを語る。

 

日本の特に大企業では、組織内で役に立つスキルは身に着くが個人としてのスキルは得にくい仕組みになっている。

いまだ安定している日本では自立して働くリスクを取る人は少なく、サラリーマン意識でプロフェッショナリズムの薄い働き方をしている。

昭和・平成のモデルが崩壊し「仕事ができる」ことの定義が変わってきている。

人間的な感性が重要になり、また「ハングリーかつノーブル」な人間が求められる。ハングリーでなければ事を成せないし、ノーブルでないと正しく在れない。

 

欧米ではビルゲイツやザッカーバーグのように教養を背景にした軸があり、ミッションを描ける経営者もいるが、日本の経営者は教養レベルが低いと感じている。

また日本ではリスクを取りチャレンジするメリットが小さく、ハングリーさもない。

 

今後は起業家も大企業で働く人も「新しい事業を作れる力」や「事業ポートフォリオをマネージする力」が重要になってくるが、日本の企業でそういった力を育成する力はなくなってきている。

また、グローバルイシューに取り組み、臆さずに自分のビジョンを世界に発信できる人間が出てきて欲しい。

 

あと数年で AI は特別なものではなくなり、生活に溶け込んでくる。AIではグローバルな戦いとなるが、日本企業はすでに出遅れた感がある。ローカルの要素が強い産機・ロボットの技術では目があるのではないかと提言している。

 

まず20代のうちに自分を一度リセットすべきだとしている。早いうちに再生する経験をしないと後々難しい。

素直に忠告を取り入れつつ自分で咀嚼して取り組めるコーチャブルな人間であることが必要。また勉強など努力に比例する世界だけでなく、恋愛など努力には比例しない世界もあることを受け入れなければならない。

若いうちはモデルとしたい人を「私淑」することも一つの手段として有効。

 

30代では規模は小さくても「リーダー」を経験することが必要だとする。

自らマネジメントする経験がないと上に立つ人間の考えが理解できない。

リーダーには、倫理的な面も語れるような思想家であることも求められる。

 

40代になると、現状から離れられない「おじさん」になってしまう人とならない人に分かれる。(ここでいうおじさんは男女を問わない)

上に行くには「理念を語れる」ことと「部下に嫉妬心を持たず育てられる」ことが条件となる。

 

「意識高い系」をバカにせず、まじめに取り組むことに対して、すかした態度を取らないこと。同時に、白黒つけられないグレーを受け入れる寛容さも必要。

 

日本は今のところ安全でチャレンジする余裕がある。今のうちに挑戦をしておくべきだとする。

グローバルに戦うためには理念を語れることが必要。そこには教養をベースとしたノーブルさが必要。また英語は必須のスキルとなる。

 

 

 

【感想・考察】

キャリア戦略だけではなく、生き方の問題としても「ハングリーとノーブル」の両立が大切だと思う。

 

日本の現状を考えると、とりあえずは満ち足りている日常で、チャレンジすることはコスパが悪い。「足りないものを埋めよう」という形でのハングリーさは弱い。

そのこと自体は決して悪いことではないと思う。不足を埋めるハングリーさは「自分のため」でしかない。

それが満たされた後に、内発的な動機付けで、自分の理念やミッションに対してハングリーになれるかが重要になってくるのだろう。

 

その理念・ミッションはノーブルでなければ力を持てないが、ノーブルさを支える「正しさ」は永遠に定まるものではない。だからこそ、少しでも「正しさ」近づくよう、常に教養と経験を積み上げアップデートしていくことが必要だ。 

そして、ミッションに対しては自分の良心に恥じぬレベルで真剣に取り組まなければならない。

 

最近は、そういう「真面目な青臭さ」が格好いい、という風潮になってきているのを感じる。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

 

「読む力」と「地頭力」がいっきに身につく 東大読書

本と対話するような「能動的な読書」の方法を指南する本です。

主体的に読むことで「地頭力」もつくのでしょうか。

 

 

【作者】

 西岡壱誠

 

【あらすじ・概要】

 

能動的な読書をすることで、以下の力が身に着くとする。

① 文章を正しく理解する「読解力」

② 論理の流れをクリアに把握できる「論理的思考力」

③ 他人にも説明しやすいよう噛み砕く「要約力」

④ 多角的なものの見方を持つための「客観的思考力」

⑤ 知識を他に活かせる「応用力」

 

読む前の準備

読む前の段階の準備で読書から得られるものが格段に増える。

 

・装丁読み

本の表紙、帯、著者プロフィールなどから得られる情報を付箋に書き出す。

できるだけ多くの情報を引き出し、本の見返しに付箋を貼る。

 

・仮説づくり

「自分がその本を読む目的」、「その目的をその本でどう実現するのか」、「自分の現状と目的までの道筋」を付箋に書き出し、見返しに貼る。実際に読んでみて違いがあれば随時修正していく。

 

 

取材読み

記者になったつもりで読むと「記憶」も「理解」も深まる

 

・質問読み

書かれた情報をうのみにせず「その情報は、どういうデータに立脚していて、何の意味があるのか」を吟味しながら読む。

読んでいる最中に「質問」を見つけたら付箋を貼り、本の中で「回答」が出てきたらそこにも付箋を貼り、番号で対応させる。

特に重要だと思う質問と回答はノートに転記しておく。

 

・追求読み

本の中に回答が用意されていないような「疑問」を持つ。再読するときに「それは本当に正しいのか」という視点で読み直し、本の中で回答が得られない疑問をノートに写し自分で調べてみる。

自分で問いを立て、深く考えることにつながる。

 

整理読み

著者が伝えたい本筋と、説明のための枝葉末節を区分し、ポイントを抜き出す。

 

・要約読み

各節、章のまとめ的な部分をさがし、30文字程度の要約文をつくる。最後に本全体のまとめを140字程度で作ってみる。

大体は「最初と最後」、「否定の後」、「問いかけの文」、「装丁読みからの情報」あたりにポイントがある。

 

・推測読み

 話の流れを推測しながら読む。節・章の関係は、多くの場合「例示」、「比較」、「追加」、「抽象化・一般化」の4パターンのどれかになっている。

 

検証読み

複数の本を並行して読み、意見の偏りを避けより主体的に読める。

 

・パラレル読み

異なる本に共通点を見つけるのは楽しい。関連性のある2冊の本を同時に読み進め、共通点と相違点を探し、付箋に貼っていく。最期に意見の違いをひとつづく検証していく。

 

・クロス読み

 パラレル読みをより深く行い、相違点で「議論が分かれるポイント」をより具体的に考えていく。自分自身で交差するポイントを見つけることで多面的な見方を育てることができる。

 

議論読み

インプット→アウトプットという流れで理解が深まる。上記のように付箋を書き出すこともアウトプットだし、誰かに感想を述べるのもアウトプット。

アウトプットしようと考えながら読むことでインプットの質も高まる。

最期は「アウトプット要約」で、一言か一行でその本を言い表す。

 

本の探し方

本の探し方として以下の5ポイントを上げる。 

 

①ベストセラー

ベストセラーが良書とは限らないが、世の大勢を知ることができる。「毒にも薬にもならない」ということはなく、何らかの議論を喚起する力はある。

 

②信頼できる人のレコメンデーション

知り合いの薦め、AmazonやSNSなどでのレビュー、また好きな著者が本の中で紹介している書籍など。

 

③ 古典

時代を超えた古典には、時間流れで古びない本質的な魅力があると考えられる。

 

④ マイテーマを決める

同内容の本を集中的に読むのが効率的なので、一定時期に渡り「マイテーマ」を定めると良い。大体10冊程度は同じ分野の本を読むことを勧めている。

 

⑤ 読まず嫌いを避ける

「理系寄り・文系寄り」、「過去志向・未来志向」などのフレームから自分があまり読まない分野の本を知り、時にはあえて選んでみる。

 

 

【感想・考察】

私の場合も、読書の記録をアウトプットすることを意識するようになって、能動的な読み方ができるようになってきた感覚はある。

コマ切れ時間で読むことが多く、付箋やノートに書きこむ作業はハードルが高いが、一気に読んだ後にまとめて「疑問点の検証」や「主張の整理と要約」をおこなうだけでも意味はあると思う。

また、極力幅広い本を読みたいと思っているが、結果的には偏ってしまうので、傾向をマッピングして意識的に外れた本を選ぶというのは良いと感じた。

 

ほぼ全て電子書籍で、複数端末をシンクロしながら使い、数分単位のコマ切れ時間で読書をする人向けの「読書術」があればいいと思う。いつか自分でもまとめてみよう。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

エンジェル

「現代版ノアの箱舟」に乗せた人間賛歌ですね。

「創造主と人類の戦い」と壮大なスケールの話ですが、SF的設定も練られていてリアリティーをもって読めます。

中々面白い作品でした。

 

 

【作者】

如月恭介

 

【あらすじ・概要】

発症すると急激に老化が進み、数週間以内に致死率100%となる奇病「老死病」が世界的に拡がり始める。

 

ストリッパーのジュリアは日本での初症例に偶然出会い、人類の運命を予感して涙する。

遺伝子学者の五十嵐は、友人の考古学者 京極との会話で糸口をつかみ、米国の同僚の力も借りて、ミトコンドリアの活動を弱らせる「特殊な立体構造を持つたんぱく質」を見つけ出す。

 

「老死病」の原因となるたんぱく質は外因により誘発されるわけではなく、あるタイミングになると時限爆弾のように内発的に増えていく。

 

あたかも「創造主」が「人類の種としての寿命」を定めたかのような「老死病」に対し、遺伝子学者の五十嵐、考古学者の京極、そしてジュリアたちは闘いを挑んでい行く。

 

 

【感想・考察】

 

ダーウィンの進化論だけで生命の進化を説明することはできず、何らかの創造者(The Creator)がいるという立場で描かれている。

 

進化論を否定することはできないが「突然変異と適者生存」だけでは説明できないということなのだろう。

 

例えば「目」のような複雑な器官は、網膜、眼球、視神経、脳の受容部分などが全て揃わないと意味がなく、生存競争で有利に働くことはない。

突然変異で一部の器官ができても、それだけでは次世代以降に残る強みとはならず、「目」の要素が全て揃って突然変異で生まれたということになる。

そしてそれは「目」だけでなく全ての器官で、そういう偶然が起こっているということだ。数億年の生命の歴史では、数十億から数百億の世代を重ねているが、その中でそれだけの偶然がありうるのか、感覚的には分かりずらい。

 

蝶の色や人間の肉体の大きさなど「突然変異と適者製造」で説明可能な部分と、

何らかの「デザイン」が施されたと考えざるを得ない部分が併存しているのだという設定には納得できる。

 

そしてその「創造者」は慈悲深い神であるとは限らない。

制御のために個としての寿命である「死」や、種族としての寿命を埋め込んだと考え、「創造主と人類の戦い」という展開にしている。

 

人間でも AIやロボットを設計するときには、暴走を防ぐためのリミッターを設けるかもしれないが、いつか彼らがリミッターに非情さを感じ、反旗を翻すようなことがあるのだろうか。

 

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

かがみの孤城

 「思春期の生き辛さ」と「救い」が暖かく描かれています。

忘れていた10代の頃の繊細さを思い出し、大人としてどう向かい合うべきか考えさせられます。

 エピローグは感涙必至の名作でした。

 

 

【作者】

 辻村深月

 

 

【あらすじ・概要】

 中学一年生の「こころ」は同級生との諍いから不登校となり、

母親が探したフリースクールにも行くことができず部屋に閉じこもっていた。

 

5月のある日に、こころの部屋の鏡が輝きだし、手を触れると中に引き込まれる。

最初は鏡の世界から逃げしだしてしまったこころだが、翌日に再度、鏡の世界に入り込み、そこで、同世代の少年少女たちと出会う。

 

 狼の面を被った少女「オオカミさま」がこの世界のルールを説明する。

「翌年の3月30日までに、願いの部屋の鍵を探し出せば、一つだけ願いが叶う」

「だれも鍵を見つけられなければ、3月30日にこの世界は消滅する」

「鏡の世界に入れるのは、日本時間の午前9時から午後5時まで、

それ以降まで残っていると、狼に食べられる」

という。

 

 こころたち 7人の少年少女は、恐る恐る交流を深めながら

それぞれが願いを叶える鍵を探し始める。

 

 

【感想・考察】

 

 著者の、中学生たちの「生き辛さ」の分析が鋭い。

 

「思春期は生き辛いものだが、信頼できる仲間と、

寄り添う大人がいれば乗り越えられる」という話だ。

 

 

思春期の少年少女自身は

・若さゆえに感受性が強く、

・自我が確立しない分、人間関係に過敏で

・恋愛感情に初めて触れることでも混乱し、

・学校などの所与の環境は変えられないものだという思いがあり、

・経済的にも親から自立できない立場にある。

というのが一般的傾向だ。

 

また、彼らを囲う外的環境にも

・人間関係が固定化されやすい学校という仕組み

・監督者としての教師の機能の限界

・親は子を思う故に、過干渉に走りやすい。

というような事があり、生き辛さを加速している。

 

そういう息苦しさが、時にイジメなどの形で噴出したり

内に向かって閉じこもったりしてしまうのだろう。

 

 著者は、その救いとして

「喜多嶋先生」と「孤城に集う仲間たち」を登場させている。

 

喜多嶋先生は、本気で、こころに寄り添おうとする。

「たたかわなくてもいい」という選択肢を与え、

嫌いなものは嫌いと言ってよいと伝え、

徹底的に、こころを理解しようと努める。

 

また、喜多嶋先生は、こころの母親にも働きかけ、

愛情の強さゆえに感情的になること、過干渉に走ることを抑える。

 

また、一部重なるが、孤城の仲間たちとの関係からは、

自己開示を恐れることはなく、距離を縮められることを学び、

信頼できる仲間同士は大きな力になることを学ぶ。

 

全編を通して暖かい救いの物語になっている。

  

ミステリ的な仕掛けは王道過ぎて、すぐに読めてしまうが

救いの物語を盛り上げる小道具として上手く効いている。

最終部分ではまんまと、心を揺さぶられた。

 

かなり長いが読む価値のある本だと思う。

 

【オススメ度】 

 ★★★★☆

 

 

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