日本サイバー防衛&国防白書!: ~誰も書かなかったサイバー防衛&国防の身も蓋もない話〜
苫米地氏によるサイバー攻撃のリスクに関する話です。今作には独自OS開発を進めようとする苫米地氏のポジショントークが入っている感じがありました。
【作者】
苫米地英人
【あらすじ・概要】
おおよその趣旨は下記の通り。
高度なハッキングツールがユーザフレンドリーな形で流通しており、サイバー攻撃のリスクが高まっている。
日本は官民ともに危機意識が薄いが、東京オリンピックで外国人が多数来訪する時期は効分けて危険。例えばセキュリティーレベルが低く、韓国にデータを抜かれかねない LINE を 銀行口座照会やマイナンバー登録に使おうとするレベル。
サイバー攻撃は、原子力発電所や軍事施設などへの攻撃の可能性もあり、「テロ」と捉えるべきで、警察ではなく訓練された自衛隊が任に当たるべき。
セキュリティーのため、自衛隊等は汎用ハード・ソフトを流用するCOTS方式ではなく、独自OSを使ったシステムを組むべき。
【感想・考察】
ネットが致命的なインフラとなった今日、サイバー攻撃のリスクが高まっていることは間違いない。日本は官民ともリスクに鈍感だと思うし、マスコミは批判だけで建設的な提案ができないというのも事実だろう。
ただ、東京オリンピックで外国人来訪者が増えることが直接的なリスク要因になるとは思えない。ネット上の攻撃と物理的な攻撃が平行することを懸念しているのだろうか。
また、独自OSの導入は汎用的なハッキングツールからの防御にはなるだろうが、限定された開発環境であれば人的な部分がリスク要因となるのではないだろうか。Windowsレベルであればターゲットになりやすいだろうが、広く実用されることで実検証されているし、バックドアを仕組むことは難しいだろう。一方で小規模に開発され限定的にしか使われないOSは、人的な抜け穴をどのように防ぐことができるのか。広く流通するレベルのハッキングツールに対応するよりも人的なリスクに対応するほうが難しいのではないかと感じる。
【オススメ度】
★☆☆☆☆
空席 隠蔽捜査シリーズ
中編の警察小説です。ミステリではなく警察内部の力学とかを書き出す話でした。短いのでさくっと読めます。
【作者】
今野敏
【あらすじ・概要】
大森署の署長竜崎が転任し、新任署長が来る前の空白の一日の出来事を描く。
品川区内で起きたひったくり事件に対応するため大森署でも緊急配備を行うが、同じ日に管内でタクシー強盗が発生する。同時に2件の緊急配備はできず、現場の要求と本部からのプレッシャーに挟まれた副署長の貝沼は対応に苦慮するが、前署長の竜崎の助言から自体は意外な結末を迎える。
【感想・考察】
この話だけを見るとご都合主義的だが、 それぞれの登場人物がイキイキと描かれていて、シリーズで読むと楽しそうだと感じた。
【オススメ度】
★★☆☆☆
その天使、小悪魔系につき
映像が頭に浮かんでくるようなアニメ的なノリで、とても楽しいお話です。あっという間に読んでしまいました。
【作者】
hirokey
【あらすじ・概要】
大学生の暮宮明希人は痴漢の被害にあう女性を助けようとして痴漢に間違われる。冤罪を恐れ逃げした明希人は、線路で電車に轢かれる。
自室で意識を取り戻した明希人は、アリアと名乗る天使から「あなたは神の手違いで死ぬべきで無いときに死んでしまったので、神の奇跡で復活した」と聞かされる。神様のオマケで、明希人を「幸せにする」にするため、しばらくアリアが明希人と同居することとなる。
アリアは明希人が愛するアニメキャラ「聖天使キャロルハート」とそっくりな美少女だが、心をえぐるような毒舌で彼の生活を変えていく。仕送りをアリアに使い込まれ、コミュ障を乗り越えてバイトせざるを得なくなったり、近所に住む黒髪清楚系の修道女見習い詩織さんとデートをすることになったり、生活が掻き乱されていく。
そんなおり、青年実業家の玖条が明希人の通う大学に現れ「以前、自分と一緒にいたアリアドネという天使を探している」と打ち明けられる。
【感想・考察】
主人公たちのキャラクタが魅力的で、テンポの良い会話に引き込まれる。とくに明希人の「のび太」的な力強さは素晴らしい。ストーリーの展開も良く練られていて面白い。良い作品だった。
【オススメ度】
★★★★☆
星の王子さま
有名な作品ですが初めてちゃんと読みました。
自分は「理屈で納得すると安心」するタイプですが、そのために「目には見えない大切なもの」を踏みにじっているかもしれないと思わされました。やはり時代を超えて残る作品には力がありますね。
「たった一輪のバラを大切にすれば探しているものが見つかるかもしれない。大切なものは目ではなくハートでなければ見えない」
【作者】
サン・テグジュペリ
【あらすじ・概要】
飛行機事故で砂漠に不時着したぼくは、小さな星から来たという「星の王子さま」と出会う。王子さまはぼくに羊の絵を描いてほしいと言い、その羊が星に一輪だけ咲くバラの花を食べてしまわないか心配する。
王子さまは色々と質問し、自分のことはあまり語らないが、徐々に地球に来る前の出来事が分かり始める。
王子さまはいつも意地悪を言うバラから逃げ星を旅立ったが、バラのことばではなく行動に込められた思いを理解できなかったことに後悔を覚え始める。
王子さまは地球に来る前に6つの星に立ち寄った。
世界に自分の権威を認めさせたい「王様」の星、承認欲求に捉われた「うぬぼれや」の星、酒を飲む恥ずかしさを酒で忘れようとする「酔っ払い」の星、星を数えることで所有しようとする「ビジネスマン」の星、自転周期が速くなり常に昼夜が入れ替わる星で街灯に灯をつける「点灯夫」の星、自分では現場に赴かず永続性のある真実を求める「地理学者」の星。
星を巡った王子さまは「大人たちは変だ」と思う。その中でも「点灯夫」だけは、その仕事で幸せになる人がいるので「友達になれそう」だという。
地球に着いた王子さまは、数千本のバラを見る。世界に1本だけだと思っていたバラがそれほどたくさんあることに驚く。
その後王子さまキツネに出会った。最初にはキツネは「まだ飼いならされていない自分は王子さまにとって特別な存在ではないし、王子さまもキツネにとって大事な存在ではない」という。だが一緒に時間を過ごすうちにお互いが特別な友達になることを知る。王子さまは自分の星のバラを思い出し「バラは世界にたくさんあっても、ぼくが手間をかけ特別な関係を結んだバラは1本だけだ」と思い至る。
飛行機の修理がおわったぼくは、王子さまが毒蛇と話しているのを見る。王子さまは自分の星に帰るのに「自分の体は重すぎる」から魂だけで戻ろうとする。
「この夜空の星のどれか一つにボクがいると思ってみれば、全ての星が笑いかけているように見える」と言い残し王子さまは消えていった。
【感想・考察】
あまり分析的な読み方をするべき本ではないと思う。
王子さまが訪れた星々の大人たちの様子からは、今の自分の生き方を反省させられる。「大切なもの」は何なのか見えているのか、自分の行動は「大切なもの」に向かっているのか。一輪のバラが特別だから大事なのではなくて、バラを大事にするから特別になる。
素晴らしい作品だと思う。
【オススメ度】
★★★☆☆
寝ながら学べる構造主義
難解なイメージのある「構造主義」について、ごくごく簡単に解説した本です。ほとんど知識がない状態でも、とても興味深く読めました。
抽象度の高い意味不明な文章を、具体的に噛み砕いて説明していて、すっと腹に落ちる感じが気持ちいい名著です。
【作者】
内田樹
【あらすじ・概要】
構造主義の前史から、構造主義の思想の中心となる4人を紹介している。
1. 構造主義の前史
現代は「ポスト構造主義」の時代だが「いまだ構造主義的な見方が常識である奇矯な時代」だという。「私には他人よりも世の中が正しく見えている」とは論理的に基礎づけられないことを、だれもが理解するようになっている。
構造主義と端的にいうと「私たちは常にある時代、ある地域、ある社会集団に属しており、その条件が私たちのものの見方、感じ方、考え方を基本的なところで決定している。だから、私たちは自分が思っているほど、自由に、あるいは主体的に物を見ているわけではない」ということになる。
構造主義の源流にある思想家の一人であるマルクスは、人間の個別性は「何ものであるか」ではなく、「何ごとをなすか」によって決定されると考えた。社会的な階級によってものの見え方が変わってくるのであり、普遍的な人間性というものは存在しないとした。
人間はありのままに「存在」するのではなく、自分がそうありたいと思うものになるため「行動」することで何かを作り出し、その創作物が作り手が何ものであるかを規定し返すとする。
もう一人、構造主義の源流にいるのがフロイトだとする。フロイトは「自我」は人間の主人ではなく「無意識」に生起している心情生活から、断片を受け取っているだけだという。マルクスは「自我」は外部に規定されるとし、フロイトは逆方向で「無意識」が規定すると考えたが、どちらも「自我」を中心と考えていない。
また、マルクス・フロイトと同時代人であるニーチェも、過去や異文化の社会的感受性や身体感覚のようなものは「いま」を基準としていては把握できないとし、この系譜学的な思想はフーコーに引き継がれる。
2. 構造主義の始祖
言語学者のソシュールが構造主義の始祖であるとされている。
ソシュールは「ことばとは、ものの名前ではない」といい、言語活動が「すでに分節されたもの」に名前をつけるのではなく、名前を付けることが否定形の世界を切り分けることなのだとする。たとえば「Sheep(羊)」と「Mutton(羊肉)」を区別する英語と、両方を「moutton」フランス語では、観念の切り取り方自体が違う。
3. 四銃士の活躍
・フーコー
歴史は「いま・ここ・私」に向けて一直線に進化してきたわけではなく、私は数々の分岐を超えてやせ細ってきた結果であり、その背景には恣意的に排除され「語られなかった」歴史があるとする。
・バルト
ソシュールが「記号」を定義した。「記号」とは意味あるものの「徴候」や「象徴」とは異なり「人為的取り決め」以外の自然的な結びつきがないものをいう。
バルトはソシュールの記号学を展開した、その中で本書は「エクリチュール」と「作者の死」について語っている。
「エクリチュール」とは、「ラング(言語)」と「スティル(文体)」に加え、言葉遣いとして集団的に選択され実践される「好み」だと定義される。「ボクっ子」とかの言葉遣いだろう。このエクリチュールがその人の生き方全体をひそかに統御するとしている。
「作者の死」は「人間が言語を語るとき、記号を過不足なく使うことはできず、作者が言おうとしたことを特定するのは困難」であり、「さまざまな文化的出自を持つエクリチュールによって構成されたテクストは 読者において収斂する」ということだ。
・レヴィ-ストロース
レヴィ-ストロースはサルトルの実存主義に引導を渡し、「意識」や「主体」から「規則」と「構造」に目を向けさせた。
実存主義では「実存は本質に先行する」として「人がどう決断するかで、何者であるかが決定される」と考える。ここまでは構造主義とも対立しないが、サルトルは「歴史の流れには法則があり、その法則をしれば決断を誤ることはない」としたことから袂を分かつ。
またレヴィ-ストロースは人間社会の本質は、「社会は常に同じところにとどまっていることはない」、「人間関係の本質は贈与にある」とした。
・ラカン
「鏡像段階」の理論として、初めて鏡を見た幼児が「これが自分なのか」と安堵し、私でないものを私と見立てて私を形成する。この段階で私の原点が私の内部にはないという危うい状況を内在している。
「父の否/父の名」として、父(父的な父権者)は、名づけることで世界に切れ目を入れ、世界の理不尽さを納得させるプロセスも説く。
【感想・考察】
構造主義に関する書籍は分かりにくいものが多いが、ごく簡単にいうと「人間の自我が主体的に物事を決めているのではなく、構造的な仕組みが決定している」ということだろう。「自我」の力で「無意識」を制御しようというのも思い上がりなのだろうなと思うようになってきた。
【オススメ度】
★★★★☆
2時間で文章力を身につける4つのステップ
文章の書き方を簡潔にまとめた本です。「読解力は読書量の差」だが「作文力」はアウトプットの量と整理の仕方をしらないと向上しない、という作者の意見には全面同意します。意識して練習しない書くことは上達しませんね。
【作者】
C.B個別学院、遠藤篤
【あらすじ・概要】
「起承転結」をベースとして文章の書き方をまとめている。
「起」:最初で読者をひきつける。問題提起の問いかけを使う。
「承」:説得力を持たせるため、具体的なエビデンスや数字などを使う。
「転」:一般論を否定して自分の主張を入れる。
「結」:転の主張をまとめて強化する。
また、より読みやすくするため
「文の短さ」と「漢字ひらがな比率の適正化」をすべきとして、巻末に「接続のことば」と「ひらくべき漢字」のリストを載せている。
【感想・考察】
文章を書くときに、起承転結を実際に意識することはあまりないが、「型」として練習してみようと思った。
例として挙げられているのか、各章の間に挿入される文章がちょっとホラー。。
【オススメ度】
★★☆☆☆
魔女の大暗号
暗号解析が軍事・政治的に重要な役割を果たしている中世ヨーロッパ風世界のファンタジー小説です。暗号の技術的な話が面白く、後半には暗号がストーリーに深く関わる鍵となり、スリリングな展開が続きます。是非とも続編が読みたいと思わされる話でした。
【作者】
八槻翔
【あらすじ・概要】
シャリエッテ帝国が誇る暗号解読局ブラックチェンバーの主任のエンリケーテはその卓越した能力から「魔女」と呼ばれていた。
皇帝からエンリケーテの護衛を任ぜられた 鬼助は、当初エンリケーテから疑われ疎まれていたが、その真面目な性格と暗号解析のセンスを認められ、徐々に信頼を得ていく。
エンリケーテは、シャリエッテ帝国に出入りする暗号文書を検閲する業務に携わりながら、極めて強度の高い「魔女の大暗号」の開発を行っていた。シャリエッテ帝国の皇族である叔母ルナシールに「魔女の大暗号」のコードブックを渡したあと、エンリケーテたちは大きな陰謀に巻き込まれる。
エンリケーテたちを陥れようとする黒幕はだれなのか。鬼助たちと共に頭脳戦に挑む。
【感想・考察】
古典的な暗号の話が面白い。最初に鬼助に出された換字式暗号の頻度分析あたりは「踊る人形」あたりの古典ミステリでも出てきて馴染みはあるが、頻度分析を避けるため高頻度の文字に複数のコードを割り当てるホモフォニックや、ノイズとなる冗字のような技術は興味深い。
近年の暗号では計算機のマシンパワーを駆使しているため、理論は理解できても生身では解けないが、ベースとなる考え方を知るのは楽しい。
ストーリーはやや中途半端なところで終わっているので、続編に期待したい。
【オススメ度】
★★★★☆