毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

三日間の幸福

 寿命を売ってしまった大学生と彼を見張る監視員のお話です。切なく残酷なストーリーですが、最後は優しい気持ちになれます。グズで不器用な主人公に完全に感情移入してしまいました。

 

【作者】

 三秋縋

 

【あらすじ・概要】

 困窮した20歳の大学生クスノキは「寿命・健康・時間を査定して買い取る」という怪しげな店にたどり着く。残り30年の寿命を3ヶ月だけ残し30万円で打ってしまう。

 寿命を売った者には、自暴自棄になり事件を起こすのを避けるため監視員が付く。クスノキと監視員ミヤギの不思議な生活が始まる。

 残り3ヶ月でやりたいことを実行していくが、高校時代の友人も小学生時代から大事に思っていた人とも、すでにすれ違ってしまっていることに、今更気がつく。

 孤独を深めるクスノキは、本当にやりたいこと、自分ができることを見つけ、残り少ない人生を投じていく。 

 

【感想・考察】

 切なく悲しい話だが、最後に幸福を掴めたクスノキとミヤギの人生は悪いものではなかったのだろうと思いたい。

 自尊心ゆえに世界に踏み込む勇気を持てなかったクスノキが、最後には自分に正直に生きようとする姿は、掛け値無しに格好いい。

 ひとつ、寿命のやり取りは3回まででまだ1回権利を残していること、「寿命の売買」とあるので「買い戻す」可能性もあることが気になっている。世界との関わり方を変えた2人が残り3日間で逆転する可能性もあるのでは、と夢想しながら読み終えた。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

いつ、誰が相手でも必ず盛り上がる 銀座の雑談手帳

 銀座のクラブのママである著者が、雑談の盛り上げ方を語ります。日本随一の社交場である夜の銀座で培われた気遣いはさすがですが、本題よりも「銀座の手土産」として紹介されたものの方が気になりました。

 

【作者】

 日高利美

 

【あらすじ・概要】

 雑談の盛り上げ方としては、ごく一般的な内容。

 ・自分のことを語るより相手に興味を持ちましょう。

 ・相手の名前を口にしましょう。

 ・知らなかった素直に聞きましょう

 ・相手の前回の話を大事にし、お勧めなど試してみたら伝えましょう。

 ・相手の着ている服、天気、出身地などが鉄板ネタ。

 などなど。

 

 紹介される「銀座の手みやげ」は興味深い。

 ・Katsu the Humilton の「カツサンド」

 ・パティスリー西洋銀座の「銀座マカロン」

 ・銀座文明堂の「壺焼き発酵バターカステラ」

 ・銀座たい焼き 櫻家の「小鯛焼き」

 ・Wa・Bi・Sa 三越銀座店の「香ほろん」

あたりは是非試してみたい。

 

【感想・考察】

 ビジネス社交での気遣いはさすがだと思う。ただ普遍的な内容だけに、新しい発見は少ない。

 

【オススメ度】

 ★☆☆☆☆

 

 

脳は、なぜあなたをだますのか ──知覚心理学入門

  「知覚心理学」を研究している著者が、その面白さを伝えている本です。自分が見て感じていることも、目や耳や脳の機能から見ると違ったものに見えてきて面白いですね。

 

【作者】

 妹尾武治

 

【あらすじ・概要】

  知覚心理学とは「刺激と行動の対応関係から、脳内のアルゴリズムを推測する」心理学。

 

 著者の専門である「ベクション現象」について詳しく語る。

 ベクションとは「止まっているときに隣の車が動き出したのを見て、自分が動いたと勘違いするような現象」をいう。

 視覚や加速減速感覚などが自己移動の感覚を引き起こす。ベクションを調べることで感覚の重み付けや、酔った時などの影響を調べることができる。また上昇感覚のベクションを与えると肯定的になるなど、感覚から判断へのフィードバックも認められる。

 

 次に「クオリア」につい語る。

 クオリアとは「自分が主観的に感じている赤の赤さ」など自分固有の感覚を言う。「赤」に関する自分の感覚をどれだけ列挙しても、他の人に伝えることはできない。

 知覚心理学の一つの命題はクオリアを言語レベルに還元しようとすることだが極めて難しい。

 

 つづいて「自由意思」についての著者の持論を説く。

 感覚刺激が意識に上るまでは0.5秒のラグがあること、体を動かそうと意識しする0.2秒前には身体を動かすための電気信号が脳から発せられていることが実験で確認されている。

 人間は「自由意思」で自分の行動を決めていると感じているが、実は外的刺激に対する自動的な反応を、後付けで自分の意志だと感じているだけだという。これは「主体となる意志」というフィクションの存在が「エピソード記憶」を持つのに有利だったからだと著者は考えている。

 

 また、「行動経済学」の基礎を確立しノーベル賞を受賞したダニエル・カーネマンが明らかにした「人間行動の非合理性」について語る。

 100%の確率で7000円もらえるのと、90%の確率で10000円もらえるなら、期待値でいえば後者の方が有利だが、前者を選ぶ人が多い。

 100%の確率で7000円奪われるのと、90%の確率で10000奪われるなら、期待値計算では後者の方がリスキーだが、後者を選ぶ人が多い。

 人間の判断では、メリットよりもリスクを恐れる、失うときは金額の差が心理的価値の低下に強く影響するが、得るときは金額の差の影響がそれより少ない。

 こういう心の機微としては認知されていたことを経済学に持ち込んだ成果を評価され、カーネマンはノーベル経済学賞を受賞した。

 また、モンティーホール問題については、人間よりも鳩の方が正しい認識をしたとして、人間の意識が現実を素直に見ることを邪魔している例も挙げる。

 (モンティーホール問題:3つのドアのうち、1つが正解。回答者が一つのドアを選んだあと、司会者が選ばれなかったドアのうちハズレの方を開く。ハズレが開かれ2択となったときに、ドアの選択を変えるかそのままにするかという問題。数学的には変えた方が2倍の確立となるが、感覚的には変わらないと思われがち)

 

 騙されないための「心のからくり」についても語る。

 「注意資源」は有限であり、詐欺師などは複数の課題を同時に与え、判断力を低下させているという。

 注意資源の総量を増やすことは難しいが、努力によって個々の作業に必要とする注意資源を減らすことはできるとする。

 また判断に影響を与える要素として、空腹時は否定的な判断をしやすい、うなずく動作をしているときは肯定的な判断をしやすい、設問などに組み込まれた数字がアンカリングとなって基準になりやすい、などを挙げる。

 

【感想・考察】

 ベクションやクオリアの研究が進めば、どういう刺激からどういう感覚フィードバックが得られ、どういう感覚に現実感を覚えるのかということが明らかになる。そうすると「仮想現実」のリアリティーが上がり、ゲームや映画と言ったエンターテインメント以外の世界にも広がっていくことは間違いないと思う。

 自分の感覚でいうと、映画よりは小説の方が自分のクオリアを呼び覚ます。文字だけの方が感覚刺激は少ないはずなのに、心の奥に踏み込んでくるのは何故なのか、考えてみると面白い。

 

 また「自由意思」について、刺激に対する反応という「0.5秒の世界」では著者の言う通りなのだと思う。実際には考える前に体が動いているのだろう。

 ただ、論理的な思考の積み重ねだったり「将来は○○をしたい」というような遠大な「思い」が、長期的な行動に影響を及ぼしていないとは思えない。全て含めて「自由意思はフィクション」とするのは少々乱暴だとも思う。

 

 心理学のように、実験をベースとした科学では「実験方法のオリジナリティー」に研究者の能力が出るという指摘も、門外漢には新鮮だった。うなずき動作を強制するために、「ヘッドフォンの振動に対する音質の影響」といった設定を用いる発想だとか、「金持ち」の近似値として「いい車」を持ち出す大雑把さとか、なかなか楽しそうだ。

 

【オススメ度】

 ★★★★☆

 

 

 

はさんではさんで

  青春文学を募集している「坊ちゃん文学賞」の受賞作品です。弾けるようにキラキラした青春小説ではないのですが、エキセントリックながらもリアルな女子大生「タロウ」にやけに親近感を感じます。

 

【作者】

 甘木つゆこ

 

【あらすじ・概要】

 女子大生の「タロウ」は、幼少時の性犯罪のトラウマから、潔癖で相手に深く踏み込めない「貴之」との関係に苦しむ。

 手術用の鉗子で自分の体を挟むという、痕の残らない自傷行為を繰り返すタロウを「トリッキーな女」と呼ぶ上級生の「富田」は、大学に馴染めない彼女をゆっくりと

 

【感想・考察】

 タロウの描写が生々しく面白い。ラノベのような男子視点での理想的女子と比べると、だらしなく、あざとく、不器用で、わがままで、気分屋で、臆病な女子大生だが、何故か親しみやすい安心感がある。

 ストーリーとしては盛り上がりもオチもないが、登場人物たちの日常を見るだけでなかなか面白い作品になっている。

 

【オススメ度】

 ★★☆☆☆

 

たとえる技術

 「たとえ」を使うことで、分かりやすくオリジナリティのある表現をしましょう、という内容の本です。たとえるための目の付け所をいくつか挙げています。

 ですが全体として実用書というより笑かすためのギャグ本という感じでした。

 

【作者】

 せきしろ

 

【あらすじ・概要】

 「たとえる」ことの効能として、感情を伝えやすいこと、オリジナリティのある表現ができることを挙げている。

 比喩表現を作るためのポイントとして、

 ・視点を変える

  女性→人間→動物→生物→地球上のもの など視点をずらしていく。

 ・似た形、色、動きなどから連想する

 ・自分と相手の共通の得意分野を使う

など、いくつかのポイントを示しながら、多くの例文をあげている。

 

【感想・考察】

 「すごく嬉しい」というより「期末試験の最後の科目が終わった時のように嬉しい」という表現の方が、同じ経験をしている人の間では伝わりやすいだろう。主観的な感情は、どれほど言葉を尽くしても伝えきれないものだが、エピソードが絡む表現であれば相手がそのエピソードと結びつけている記憶、感情、感傷を惹起することができるのだろう。

 比喩表現や物語で言葉を選び相手の感情を動かすことを意識するのは、RPGの最初の町周辺で地道にレベル上げをするくらい楽しい。

 

【オススメ度】

 ★☆☆☆☆

 

 

極める 愉しむ 珈琲事典

 コーヒーは好きでよく飲むのですが、豆の種類や入れ方についてはあまり意識したことがなく、ほとんど知識がありません。少しでも理解のきっかけとなる情報があれば、より楽しめるかと思って読んでみました。

 

【作者】

 西東社編集部

 

【あらすじ・概要】

 コーヒーの味を決める要因の説明や美味しい入れ方など、基本的な知識を紹介する。

 

① 原種ごとの特徴

 ・アラビカ種 

  害虫に弱く栽培に手間がかかるが、豊かな香りと酸味があり、

  高品質コーヒーの主流となっている。

 

 ・カネフォラ種

  低標高で育ち害虫に強く、実が多く付く。

  安価なブレンドやインスタントに使われることが多い。

 

 ・リベリカ種

  低地で少ない雨で育つ。ほとんどヨーロッパでしか流通していない。

 

 

② 代表的な銘柄ごとの味の傾向

 

 ・ キリマンジャロ、ハワイコナ

  酸味が強い。

 

 ・マンデリン

  苦味が強く深いコクがある。

 

 ・グアテマラ

  甘い香りが特徴。柔らかい酸味と苦味、程よいコクもある。

 

 ・ブラジル、ブルーマウンテン

  酸味・甘み・苦味のバランスが良い。

 

 ・コロンビア

  力強く豊かなコクがある。ブレンドのベースによく使われる。

 

③ 焙煎度合いによる違い

 

 ・浅煎り(ミディアムローストなど)

  酸味が強く出る傾向。

 

 ・ 中煎り(ハイロースト、シティローストなど)

  バランスが良い。

 

 ・深入り(フレンチロースト、イタリアンローストなど)

  苦味が強く濃厚な香り。

 

④ 淹れ方による味の違い

 

 ・ペーパードリップ

  紙が油や雑味を抽出するのでクリアな味わい。

  

 ・ネルドリップ

  布を使ったドリップ。紙より目が荒いため抽出成分が濾過されず、

  味に深みが出る。

 

 ・サイフォン

  高温で短時間に抽出するので香りが良いコーヒーに仕上げやすい。

 

 ・フレンチプレス

  誰が淹れても味のブレが少ない。油脂をしっかり抽出するのでコクがあり

  丸みのある味になる。

 

 ・エスプレッソ

  瞬間的に9気圧の圧力をかけ95度前後で抽出。豆の質がダイレクトに出る。

 

⑤ 代表的なアレンジ

 

 ・カフェオレ

  コーヒーと牛乳を1対1で。

 

 ・カフェラテ

  エスプレッソ1に対し、フォームドミルクを7〜9。

 

 ・カプチーノ

  エスプレッソ1に対し、フォームドミルクを4〜5。

 

 ・カフェマキアート

  エスプレッソ1に対し、フォームドミルクを1〜2。

 

 

【感想・考察】

 最低限のベースとなる知識を持っていると、その後新しい知識も吸収しやすい。食べ物・飲み物は知識で味わうものではないけれど、自分自身の好みを知り、外さないようにする役には立つだろう。

 

【オススメ度】

 ★★☆☆☆

 

火焔の凶器―天久鷹央の事件カルテ―

 サヴァン症候群の女医である鷹央(たかお)と、見習い内科医の小鳥遊(たかなし)の掛け合いが楽しい医療ミステリです。

 内科医の経歴を持つ作者だけあって、医療現場の描写にはリアリティーがあります。医療系の話は暗くなりがちですが、登場人物の賑やかさのおかげで楽しく読めました。

 

【作者】

 知念実希人

 

【あらすじ・概要】

 歴史を研究する大学教授が、平安時代の陰陽師である蘆屋炎蔵の墓を暴く。

言い伝えられる、炎蔵の呪いなのか、教授の一人は嘔吐を繰り返して部屋に閉じこもり精神を衰弱させ、一人は気胸を悪化させる。共同研究者である助教授は自室で「人体自然発火」としか思えない焼け方で死んでいた。

 鷹央たちも墓に入り、教授たちが衰弱した原因を突き止めるが、その後も遺体の発火や放火など、炎にまつわる被害が止まない。

 「炎蔵の呪い」を利用しているのは誰なのか。

 

【感想・考察】

 天久鷹央シリーズでは医療知識が事件解決のカギとなる話が大半だが、本作では医療の話は前面には出てこない。

 本作で面白いと思ったのは、徐々に変化していく鷹央と小鳥遊の関係だ。シリーズの最初の頃には、天才的な頭脳を持つ鷹央に振り回されていた小鳥遊だが、いつの間にか成長し、彼女を支える立場になっている。

 

【オススメ度】

 ★★★☆☆

 

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