毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

悪いものが、来ませんように

 「読み終わった後、もう一度読みたくなる」 というアオリ通りでした。叙述トリックであることを分かったうえで読んでも「騙される快感」があったし、隠された関係性がきちんとテーマに繋がっていました。

 

【作者】

 芦沢央

 

【あらすじ・概要】

 助産院で働く庵原紗英は子供が欲しいと思いながら夫の浮気に悩んでいた。紗英と親しい柏木奈津子も福祉施設でのボランティア仲間に馴染めず、お互いが支えあう関係だった。

 ある日、紗英の夫が失踪し他殺死体として発見される。「犯人」はすぐに見つかるが、紗英と奈津子の関係が大きく変化していく。

 

【感想・考察】 

 叙述トリックだと分かって読んでいても、きっちり騙された。後から読み返すと、冒頭シーンの時系列や挟み込まれた証言の位置づけが見え、きちんとプロットが練られていることが分かる。

 トリックそのものに「騙される」楽しさもあるが、紗英と奈津子の共依存的な関係や、その背後にある社会の呪縛のようなものの怖さも感じる。

 

 

漫画 君たちはどう生きるか

 昨年くらいからタイトルをよく見るので読んでみました。原著は80年以上前の1937年 に発行されたものです。日中戦争がはじまり二・二六事件が起きた年で、戦争に向けた思想統制が動き始めた時期だと思っていましたが、このタイミングで「自分の経験から始めて自分の頭で考えろ」というメッセージを発しているのはすごい。広く読まれるべき本だと思います。

 

【作者】

 吉野源三郎(原作)、羽賀翔一(漫画)

 

【あらすじ・概要】

「コペル君」と彼を立派に育てることを託された「おじさん」の話。コペル君の生活場面は漫画、おじさんからコペル君に送ったノート部分は文章で書かれている。

 コペル君がいじめを受けているクラスメートたちとのかかわりの中で、自分なりのものの見方・考え方を確立するよう、おじさんが手助けをしていく。おじさんのノートにあった項目を書き出していく。

 

・ものの見方について

 銀座のビルの上から街を見ていたコペル君は、行き交う人々を分子のようだと感じ、自分自身もその一部だと感じる。「自分を中心とした世界観」から「自分を相対化した世界観」への移行を、おじさんはコペルニクス的転換だと讃える。「コペル君」という呼び方もここからきている。

 

・真実の経験について

 クラスメートの浦川君がいじめを受けていることに耐え切れず、北見君がいじめっ子に反撃をする。浦川君は北見君がいじめっ子に暴力をふるうのを見て必死に止める。コペル君は北見君の行動に感激し、浦川君の行動にも心を動かされた。

 おじさんはコペル君がどういう出来事から何を感じたのか、ごまかさずに考えていく必要があり、それこそがコペル君自身の思想になるのだと伝える。

 「常に自分の体験から出発して正直に考えてゆくこと」、「世間の目よりも何よりも、自身がまず、人間の立派さがどこにあるのかを知り、心から立派な人間になりたいという気持ちを起こすこと」が大事だという。

 

・人間の結びつきについて

 ニュートンがリンゴの落下を惑星運動のレベルまで敷衍して考え万有引力の法則を導き出したことを聞いたコペル君は、「粉ミルクが家にやってくるまで」のことを敷衍して考え、人間同士の関係が網の目のように関わり合っていることに気づく。そして関係が広すぎるためお互いが見えなくなっていることに違和感を抱く。

 おじさんは、生産関係が複雑になっていた歴史的経緯を説明し、コペル君が違和感を覚えた「お互いの関係が見えにくくなっている」ことが、人間らしさを失わせ訴訟や戦争が起きる遠因になっているとも考え、将来のコペル君への課題とする。また、この考えに自分自身で至ったことを高く評価しながらも、「生産関係」の考え方は経済学の基本で広く知られていることであり、すでに発見されたことの再発見よりも、新規の発見を目指すべきだとも伝える。その為には、今までの学問の成果を知る必要があり、それもまた若者が学習をする意義であるとする。

 

・人間であるからには

 浦川君は父親の仕事を助けるため登校することができないでいた。コペル君と比べて貧しい状況に置かれた浦川君だが、貧しいこと自体を見下してはいけないという。貧しさゆえに卑屈になった精神は良くないが、貧乏だが高潔に生きている人もいる。実際に手を動かし物を作り出し世界に貢献している人々に敬意を抱いている。

 

・偉大な人間となどんな人か

 コペル君たちがナポレオンの生涯に興味を持つ。おじさんはナポレオンの精力的な活動に敬意を払いながらも、「人類にどう貢献したか」という視点で是々非々で評価すべきとしている。フランス革命による人権思想の広がりを反動から守り広げたこと、「ナポレオン法典」と呼ばれる法体系を整え広めたことは人類に対する大きな貢献で、覇権のための覇権にこだわってしまった後半生は人類に対して害悪を及ぼしたとみている。圧倒的な力をもって人類に貢献すれば偉人だが、圧倒的な力で悪いことをする人もいる。一方で力がないゆえに自分にも周囲にも悪い影響を与える人もいる。「人類の進歩に結び付かない英雄的精神も空しいが、英雄的な気魄を欠いた善良さも同じように空しい」という。

 

・人間の悩みと、過ちと、偉大さとについて

  コペル君は堀川君をいじめから守ると友達と誓ったが、上級生から暴力を振るわれる堀川君たちを見捨ててしまい、後悔の念に苛まれる。

 おじさんは「自分が取り返しのつかない過ちをしてしまった」という意識が人を目覚めさせ真実に向かわせることもあるといい、コペル君が正しい道を歩いていけるという信頼を示す。

 

【感想・考察】

 太平洋戦争直前は息苦しい時代なのだと感じていたが、きちんと考え正しく生きようとする人もいたことが伝わってくる。これからも経済の形は変わり戦争の形も変わり、思想をコントロールする方法も進化していくだろう。だからこそ「自分の経験をもとにした一回性の思想から、自分自身の軸を作り出し、かつ自分が立派で高潔な人物になろうという意志を持ち続けること」というメッセージは今日でも十分に強い意味を持つと思う。

 

一九八四年

 「戦争は平和なり」

 「自由は隷属なり」

 「無知は力なり」

というスローガンが物語の内容を表現しています。

ディストピア作品としてよく名前を聞くので読んでみましたが、実に面白い。

権力を永続させようとする支配者が、どのように人民をコントロールしていくのか、極めて精緻に考えられていて、読むだけで息苦しくなるような話です。一読の価値があると思います。

 

【作者】

 ジョージ・オーウェル

 

【あらすじ・概要】

 1984年、世界はオセアニア・ユーラシア・イースタシアの三大国に分かれる。主人公のウィンストンはオセアニアの真理省で「間違えていた過去の記録」を修正する仕事をしていた。党の偉大なる指導者である「ビッグブラザー」の発言が現実と異なっていた場合、ビッグブラザーの過去の発言を修正するか、現実に起こったことを修正することで、党の発言は常に間違いのないことになる。

 ウィンストンは「現実」と「記録」の差異に苦しみ、人々の記憶がコントロールされることに反発を覚える。党が24時間体制で監視する「テレスクリーン」の死角に潜み日記をつけ、自分と同じ思いを抱いていると思われるオブライエンと接触したいと願う。

 ウィンストンは同じく党に反感を持つジュリアと恋に落ち、下層民「プロール」の居住区にある「古道具屋」の部屋で逢瀬を重ねる。また党の統治方法について書かれた本を借りてその思想に触れる。しかしある日、党の「思考警察」に確保され、「愛情省」で徹底的な尋問を受ける。

【感想・考察】

 「戦争は平和なり」という言葉の通り、戦争は実際に国家間で覇権を争うものではなく、上層・中層・下層に分かれた社会階層を安定して保つために行われている。あるいは行うフリがされている。余剰生産を防ぎ、生活のレベルを上げさせないことで中層に権力を転覆させる危険をなくし、外部に敵を設定することで求心力を保つ。

 「無知は力なり」の思想を端的に示すのが「ニュースピーク」と呼ばれる言語。曖昧さを廃して「含み」や「ニュアンス」を表現できないようにし、語彙を制限することで思考の範囲を狭める。「良い」の反対は「非良い」で「悪い」という言葉を使わない。「Free」 から「自由」という意味をはぎ取り、「Fat Free」など「~が含まれていない、必要ない」という意味に限定する。

 人々が考える力を制限し、党の思想「イングソック」に合わない観念は無いものとする。

 「自由は隷属なり」という通り、人々は党の思想に全てをゆだねる。ウィンストンは過去を改変されることに自由を奪われる苦痛を感じたが、記録と記憶が書き換えられた時、客観的で絶対的な事実などあり得るのだろうか。

 

 徹底した支配が描かれ、ある意味救いのない世界で、最後には銃殺されることが唯一の救いとなるウィンストンの人生も悲しいが、ウィンストンが「ここから世界が変わる」と感じた下層民であるプロールたちの力強い生活の姿に唯一の救いを感じる。

 

こころの旅

  精神科医である神谷恵美子が、誕生から死まで人が一生でたどる「心の旅」を書いた本です。

 最初は学説の紹介などで客観的な内容なのだけれど、向老期や死を迎える段階では、少し宗教掛かったような主観的な内容でした。40年以上前の出版なので内容的に古さも感じます。

 正直、今の自分には合わない内容でした。数年後に読み返すとまた違う印象を受けるのでしょうか。

 

 【作者】

 神谷恵美子

 

【あらすじ・概要】

 人生のそれぞれのステージでの「心の旅」を読み解

・妊娠期間中から乳児期

 妊娠期間中の母親の意識の変遷、出産直後の乳児が周囲に「適応」していく。環境に対して働きかけ反応を得ることで「基本的信頼感」を得る。

 「母親の応答の規則正しさと予測可能性こそ乳児の世界の最初の秩序であり、原始的な天国なのだ。必要なものを与えてくれる人の実在が次第に確かな事実として現れ、安心して愛し信頼できる対象として受け止められる。この最初の人間関係で大切なものを学ぶ」とする。

 

・幼児期

 「あそび」から自分の働きかけと環境の反応を学ぶ。言葉を学び社会性を学び、人間らしさを獲得していく。

 自分の体が世界の中心であったのが、自分の体を客体の中の一つとして認識し、自分を運動の主体とみなすことができるようになる。

 歩くことと話すことができるようになると「自律性」が芽生え、集団の秩序と衝突する第一次反抗期が3歳前後に訪れるとする。

 

・学童期

 6歳から11歳くらいまで、思春期前の人を、著者は ホモ・ディスケンス(学ぶ人)と呼ぶ。言語・文化・歴史などを意識的系統的に形成するのに最適な時期。生理的にも心理的にも安定した「なぎ」の時期といえる。

 

・青年期

 思春期から21歳くらいまでの青年期には、学童期の心身の安定が崩れ始める。社会とその中における自己の位置や役割を見定め、「自己対自己」という文化が見られる。ここで初めて「人間性が開花」すると言えるとする。

 青年期の後期には職業選択や結婚など、重要な選択を行うことになる。

 

・壮年期

  年を取るほど個人差が大きくなり、壮年期や老年期を一概に語るのは難しいとしながらも、この時期には 「Generativity(生み出す力)」が最も強くなる傾向を認める。「子供を育てる」こともあるし、広く社会に貢献するものを生み出すこともある。

 

・向老期、老年期

 55歳くらいから身体の老いを自覚するが、初期は老いに抵抗する。新しい自己像を受け入れるのがこの時期の課題であり「第二の思春期」とも呼ばれる。

 健康状態、気質、経済条件等により個人差が大きいが「心の隠退」を積極的に捉える人もいる。活力は衰えても、知識や経験を統合し「知恵」という徳が得られる。

 

・旅の終わり

 青年期や壮年期に死に直面する場合、準備もできず後に残す人への心配が苦しみを生む。

 老年期に、自己を相対化し、自己の業績への執着を超克して、残された日々を大切に生きようとする人もいる。

 

【感想・考察】

 全体として息苦しい印象を受けたが、美しいと感じるフレーズもあった。

・人の心には「よろこび」が不可欠であること。愛し愛されること、あそび、美しいものに接すること、学ぶこと、考えること、生み出すこと。

・生命の流れの上の「うたかた」に過ぎなくても、人は様々な人と出会い、喜びを分かち合い、後から来るものにこれを伝えようとする。これが「愛」であり、心の旅で一番大切な要素だと思う。

  もうしばらく後に再読したいと思う。 

 

神津恭介、密室に挑む 神津恭介傑作セレクション

 Amazon Prime Reading で無料だったので読んでみました。だいぶ昔の作品ですが、本格的な密室トリックは今読んでも十分楽しい。

 

【作者】

 高木淋光

 

【あらすじ・概要】

 神津恭介が密室殺人を説く、以下の6編

 

・白雪姫

 青森の雪深い屋敷で起こった殺人事件。当主の弟が屋敷の離れで殺されたが、足跡は殺された当人のものしかなく、部屋は内側から施錠されていた。

 

・月世界の女

 「満月の夜に月に帰らなければならない」という子爵の娘。かぐや姫のごとく多くの男から求婚され「月に帰った後に私の姿を見つけてくれた人と結婚する」と言う。満月の夜、言葉通りに彼女は忽然と姿を消す。

 

・鏡の部屋

  かつて手品師が使っていた「鏡の部屋」で、消えてみせるという妻。部屋に入ると姿は見えず、助けを呼ぶ声が聞こえる。周辺を探すが見つからず、部屋に戻ると胸を刺された妻の死体があった。

 

・黄金の刃

  四次元の世界で時空を操ることができるという男から「人を殺した」との電話を受ける。本人は殺したと主張するが、その時男は遠く離れた場所にいて物理的に殺すことはできなかった。

 

・影なき女

 内側から 施錠された密室で高利貸しの男が殺され、一緒にいたはずに黒い服の女性が消える。関係者が続々と殺される連続殺人。黒服の女性は誰なのか。

 

・妖夫の宿

 「読者への挑戦」を挟んで前後編に分かれる本格推理。奔放で妖艶な元女優のホテルオーナーが宿に訪れるが、その前日、彼女をかたどった蝋人形の胸にナイフが刺され宿に送られてくる。物置にあった蝋人形が中庭で発見され、彼女は密室で殺されていた。

 

【感想・考察】

 1950年代~60年代の作品がメインで、社会背景に時代を感じる。戦争が直ぐ近くの生々しい体験として描かれていたり、爵位が未だ意味を持っていたり、ちょっと昔の時代小説感もある。

 舞台の古さゆえに機械を使ったトリックでは「ドローンを使えば簡単」とか思ってしまったりするが、「行動主体の入れ替え」とか「順番の入れ替え」など、人間の心理を欺く心理トリックは古さを感じさせない。

 最近は、少し重めな「社会派ミステリ」や、キャラクタ重視のラノベ寄りミステリが多いけれど、こういう純粋なミステリもたまには面白い。

 

 

最後の授業 ぼくの命があるうちに

  タイトルを見て「泣かせに来る」ことを期待していたのですが、スーパーポジティブな勢いで「どうやって夢をかなえてきたか」、「どう生きて欲しいか」を伝えるものでした。世の中に成果を残すような人は、死期を悟ってからもバイタリティーが高いことに驚かされます。

 

【作者】

 ランディ・パウシュ、ジェフリー・ザスロー

 

【あらすじ・概要】

 カーネギーメロン大学の教授で、VRの権威として活躍したランディ・パウシュが、すい臓がんにより47歳で亡くなる前に、学生や自分を導いてくれた人たち、そして、妻と3人の子供たちに送ったメッセージ。

 自分が幼いころに思い描いた夢が全てかなった人生を振り返り、自分の子供や学生たちに夢をかなえる方法を伝える。いろいろあるが、印象に残った項目を挙げる。

 

・煉瓦の壁はあなたの夢を邪魔するものではなく、あなたの真剣さを証明するもの

 困難を前にしても、その捉え方を買えれば挑戦する意欲がわいてくる。

 

・自尊心は与えるものではない、自分で築くもの

 「できていることをほめて伸ばす」だけではなく「できないことを、できるまで必死にやらせる」「それを何度も繰り返す」。君にはもっとできる。

 

・何を言ったかではなく、何をやったかに注目する

 女性が言い寄ってくる男性を判断するときは「彼の言うことをすべて無視し、行動だけを見る」のが良いらしい。

 

・とにかく頼んでみる

 願いを口にする前からあきらめてはいけない。意外と簡単にかなうかもしれない。

 

【感想・考察】

 元来パワフルな人なのだと思うが、命が長くないことを知ってから「やりたいことをやりつくす」ことに圧倒的な熱量で取り組んでいる。

 自分の人生を受け入れることができるのは、自分が主体的に生きてきたという実感があるからなのだろうか。

 過剰なポジティブさには息苦しさを感じるくらいだが、その強さには敬意を払わざるを得ない。

 

悪と全体主義 ハンナ・アーレントから考える

 ドイツ系ユダヤ人である「ハンナ・アーレント」の研究を題材に、全体主義がなぜ起きたのか、その背景を歴史的、地積学的に背景を読み解いた本です。

 一旦全体主義の渦が巻き起こると抗うことは難しい。それ故に人々が「複数性を許容」し、大衆の暴走を防ぐことが大事だと結論しています。

 アーレントは、ナチスの全体主義は構造的に起こるべくして起きたと論じ、それは類稀なる「悪人」が引き起こした特殊なものだと考え安心したい世間からは激しく糾弾されています。

 それでも媚びることなく自身の研究を重ねたアーレントの著作『全体主義の起源』や『人間の条件』を元に、本書の著者である中正氏がアーレントの歴史哲学を分かりやすく説明しています。

 分かりやすく、メッセージ性の強い名著だと思います。

 

【作者】

 仲正昌樹

 

【あらすじ・概要】

 

 第1章 「ユダヤ人という異分子」

 ユダヤ人が各地に溶け込んでいたにも関わらず19世紀になって改めて迫害の対象となった。これは西欧に勃興した「国民国家」が求心力を高めるために「異分子排除のメカニズム」を必要としていたからだと説く。

 

 第2章 「帝国主義」と「人種思想」

 資本主義により西欧が資源と市場を求めて外に向かい「帝国主義」が加速する。

 「民族の文化」を求心力とする「国民国家」が、外部に拡張するのに際し、現地との間で「人種」の意識が生まれ「民族的差別」が起こっ多と読み解く。

 

 第3章 「国民国家の瓦解」と「大衆」

 「民族」としてのナショナリズムが拡大するにつれ「国民」意識は浸食されてきた。同時に資本主義の進展により国民国家を支えてきた階級社会も崩れていく。

 階級社会からあふれ出した「大衆」は、強い磁力を持つ「世界観」を求めるようになる。世界観を巡る「運動」として「全体主義」が生まれる。

 

 第4章 「凡庸」な悪

 ナチスでユダヤ人の虐殺の実務を取り仕切っていた「アイヒマン」の裁判を見て、彼は命令に従っただけではなく「法に従い」、「自分の義務を行った」と主張した。盲目的に権威に服従したわけではなく、自発的積極的に自分の道徳に従っていた。

 

 第5章 人間であるために

 意見を表明しあう「活動」を行い「複数性」を許容することが必要だとする。

「全体主義」は陰謀的プロパガンダによって「世界観」を均質化し複数性を衰退させ、取り締まりで意見を交換する「活動」も制限する。

 

【感想・考察】

 現代ではネットが普及し意見を発信する機会は増えているが、「異質なものを排除しよう」という感覚はむしろ強くなっている気がする。「複数性を許容せよ」というメッセージは今でも生きているし、より重要になってきていると思う。

 資本主義は次のステージに進んでいるし、交通の発達で地政学的な背景も当時とは全く異なり、今後「全体主義」的な運動がおこるとしてもアーレントが読み解いたものとはまた違うものになるとは思う。

 ただどのようなものであれ、「複数性」を認めない狭い正義感で、楽な「無思想」に陥ることが、世界を窮屈にしていくことは間違いないだろう。

 

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