毎日一冊! Kennie の読書日記

面白い本をガンガン紹介していきます!!

なぜ、あの人の周りに人が集まるのか? 仕事もお金も人望も、すべてが手に入る「大切なこと」

【作者】

  滋賀内 泰弘

 

【あらすじ・概要】

 商売でもそれ以外でも、良い関係を作るために「大切なこと」をストーリー仕立てで語っていく本。

 MBAを取得しマーケティング理論に精通した主人公「ユカリ」は、就職したスーパーで現場仕事が続くことに嫌気がさし退職してしまう。仕方がなく父が経営するコンビニで副店長として働くが、競合店が近くにできてから売上は落ち込み続けている。「マニュアル」通りのオペレーションを徹底し業績回復をめざすユカリだが、空回りが続く。

そんなコンビニに70歳を超えていると思われる「オバチャン」がアルバイトとして入る。最初はスローでマニュアルに従わないオバチャンの働き方に苛立ちを覚えるユカリだったが、徐々に接客・対人コミュニケーションをオバチャンから学び始める。

 ポイントとしてあげていたのは以下のような項目。

 ・相手に関心を持ち、相手の望んでいることを「言われる前に」提示する。

 ・「お節介」と「親切」の境界は、受けた側の主観次第で分からないが、お節介になることを恐れていては、親切を施すことはできない。恐れずにお節介をしていくことで、お節介と親切の境界が徐々に見えて来るようになる。

・「トイレが綺麗」は万事が整っていることを表す。

・与えれば返ってくる。直接ではなくても返ってくる。「返報性の原理」から受けた好意に何か返さなければと考えるのが大多数の人間の思考。

・相手を理解しようという気持ちが乗っかれば、「ありがとう」は伝わる。通り一遍のマニュアル的な「ありがとう」はむしろ邪魔に感じることもある。

・マニュアルは最低限のラインを示す。そこをベースに何を積み上げることができるかを考えることで、仕事の筋力がつく。

・「思いやり」がサービスの原点。相手が困っていること、望んでいることを解決しようという気持ちがなければ、サービスは形だけになってしまう。

・お客の立場でも偉ぶらない。人は「買う立場」、「売る立場」の両方をもっている。業者に対して高圧的な態度を取ることは決してプラスにならない。

・努力をあと一歩持続することが大事。行動量がある閾値を越えると一気に成果が出始める。正しい方向性の努力をしているか検証することは必要だが、成果が出ないからといって中途半端なところで諦めてしまうのは勿体無い。

 

【感想・考察】

 商売の倫理として、「当たり前」のことを述べているが、実践するのは難しい。当たり前のことを当たり前に実行していくことが大事だが、それは本当に難しい。

 この作品は小説としてストーリーになっているため、全てがうまく行きすぎると感じるところもあるが、内容は理解しやすく感情に訴えかて心に刻まれる。できる部分を一つでも二つでも実行してみようと思う。

 

青い月の夜、もう一度彼女に恋をする

【作者】

 広瀬 未衣

 

【あらすじ・概要】

 夏休みに京都の祖母の家に行った高校生の「圭一」が、一月に2度満月となる「ブルームーン」の時に、森の奥の泉で「沙紀」と出会う。月初のブルームーンの4日間の夜、圭一は沙紀と会い強く惹かれていくが、沙紀は「初恋の人」を待ち続けていることを知り、沙紀の幸せを考え身を引き、京都を離れ東京に戻った。

 東京で日々の生活を送る中でも、沙紀の存在は心の中で大きくなり続ける。祖母の言葉から、急遽京都に向かい、あの日の沙紀に会いにいく。

 

【感想・考察】

 伏線が張り巡らせられた展開や、主人公の感情の動きは恋愛小説として十分面白いが、この小説で一番心惹かれたのは、青い月光に染まった京都の夜の風景の描写だった。嵐山の澄んだ夜空に差し込む青い月光や、賑やかで静かな夜の街に何故だかノスタルジアを感じる。

 

 

ブルースをうたう三本足の犬

【作者】

 いしい しんじ

 

【あらすじ・概要】

 「皮ぶくろ」と名付けられた三本足の犬が、人間の声でブルースを歌い出す。「ソラ」、「キキキ」、「ハンスー」とバンドを組み、世界中を回りライブ演奏をする。とある富豪が「皮ぶくろ」に用意した「ジュークジョイント」会場で最後の演奏をする。

 

【感想・考察】

 「ブルースをうたう三本足の犬」というタイトルは比喩ではなく、そのまま「歌う犬」の話だった。少し平仮名が多くて引っかかりやすい文体や、「皮ぶくろ」が歌う垢抜けない歌詞や、脇役も含めた登場人物の生き様も、「ロック」で「ブルース」な感じが溢れ出してくる。文章だけでロックを感じさせることには感嘆した。文章の世界は深い。

 

螺旋の手術室

【作者】

 知念 実希人

 

【あらすじ・概要】

 外科医である主人公は、自分の父親の手術助手として参加していたが、簡単な胆嚢の手術であるにも関わらず、出血が止まらず亡くなってしまった。父は主人公も務める病院での次期教授候補であったが、他の候補者も数ヶ月前に暴漢にあって殺されていたことが分かる。その直後には次期教授を選任する立場である現教授が、不自然な心臓発作で亡くなり、次期教授選を巡っての連続殺人ではないかという疑いが深まる。

 主人公は、次期教授選候補者を調べていた探偵の足跡を追い、誰が何のために何をしようとているのか探っていく。

 

【感想・考察】

 知念氏の作品だけあって医療知識がふんだんに使われているし、犯人の動機にも病気が関わってくる。ミステリーとして完成度が高い上に、主人公の妹との確執、祖母と父親が直面した世界の残酷さ、不幸な少年時代を過ごした父の子供に対する不器用さ、など、様々なテーマが作者の冷静で優しい視点で語られる。

 安定の良作。

 

まんがでわかる 地頭力を鍛える

【作者】

 細谷 功

 

【あらすじ・概要】

 「地頭力を鍛える」を漫画で解説した本。家具メーカのOLが同期から「地頭力」を鍛え使いこなす方法を学び、崖っぷちの状況から重要なプロジェクトを任され成功させる。

 

・思考停止に陥らない

 AIやクラウドコンピューティングの発達で、「知っていること」、「既知の情報を組み合わせ、定型的なアウトプットを出す」ことの価値は下がり、「非定型の問題に対し、考えて結論を出す」ことの重要性が高まっている。

 「知的好奇心」がベース、「論理的思考」と「直感力」がその上に乗る。「仮説思考力」、「フレームワーク思考力」、「抽象化能力」が手段として必要になる。

 

・結論から考える

 フェルミ推定の話で、完璧主義に陥らず、まずは大雑把でも目処をつけ転がし始めることが大事だとする。全ての条件が揃うことなどあり得ず、とりあえずの答えを出すことが必要。

 

・全体から考える

 フレームワーク思考を使い、全体から部分を考えるようにする。フレームワークはそこから外れた尖ったアイディアを拾えないという弱みはあるが、通常の範囲ではメリットの方が明らかに大きい。自分の思考の癖、思い込みから狭い範囲に止まってしまうリスクを回避する。

 

・単純に考える

 具体的な事象の枝葉を切り落とし抽象化する。抽象的な問題に対する本質的な解決を考える。抽象的な解決を具体的な施策に落とし込んでいく。

 

【感想・考察】

 ストーリー部分を除くと、元本と同じメッセージ。ただ、元本の発売から20年が経過し、ITの進展による「単純な知識の蓄積」価値は下がり、「問いを作る力」と「不十分な情報から、考えて結論を出す」能力の必要性は当時よりずっと上がっている。相当の線形の名があったと言える。

 内容自体は同じなので、復習として読み直す感じ。元本を未読の人にとっても、理解しやすい構成になっている。 

 

会社の老化は止められない −− 宿命にどう立ち向かうか

【作者】

 細谷 功

 

【あらすじ・概要】

 会社の成長段階を人間とのアナロジーで捉え、構造的に会社の老化は止めることができず、宿命として受け入れるしかない。アンチエイジング的な対処や老化の速度を遅らせることはできるが、老化自体は宿命なので、会社はいつか衰退するものという事実を受け入れて、それに応じた対応をすべきだとしている。

 熱力学の「エントロピー増大の法則」あげ、扱う仕事の量が増えれば人も増えて、部署は細分化され、指揮系統の階層も増えて来る。仕事の量が増えれば詳細なルールが増えるし、伝達のための会議も増えて来る。規模の拡大や仕事内容の質的向上に伴って、人やルールが増えるのは必要なことであるし、成長段階においてはプラスに働く。しかし、成熟段階にあっては「オペレーション」優先の視点となり、新たな価値を生み出す「イノベーター」が生まれにくい土壌となる。

 人間の世代交代は、学習したもの全てをリセットするため、膨大な時間のロスとなるが、それでも新たな活力を生み出すための不可欠なプロセスだと捉え、会社組織でも同様の抜本的な「世代交代」が必要だと説いている。社長の若返りなど部分的な話ではなく、完全に血肉を入れ替えるレベルでの交代が必要だとしている。

 「親子会社」という言葉も人間の世代のアナロジーになっているが、「会社は永続する」という考え方がベースにあるため、子会社は親会社存続のための道具となっていることが多い。実際の親子のように、親は「子の成長を支援し」、「子の独立を促し」、「子の独立後は必要以上の干渉はしない」ような親子会社での世代交代が必要ではないかと提言する。例として上がっていたのが、富士電機の子会社・孫会社で、売上規模では親会社をすでに大きく超えている、富士通やファナックなどである。これらの会社は親会社が富士電機であることすら世間一般にあまり知られておらず、独立した世代交代ができていると見ている。

 特に、大規模となりオペレーションに偏った会社で「イノベーター」は生きづらく、丸くなって生きるか、組織を飛び出すしかないとし、彼らにエールを送っている。

 

【感想・考察】

 「会社は永続できないのだから、世代交代をしなければならない」という視点で、会社という体制にこだわっている部分には違和感を感じていたが、最後の章での以下の論旨に共感を覚えた。

 ICTの進展に伴い、プラットフォーム部分は寡占化による「超集中」が進み、その下では個人や中小規模の会社による「超分散」が進み、大会社という組織の位置づけが変化し、「イノベーター」の活躍場面も変わって来る、という見方だ。

 個人レベルでは、エントロピー増大による複雑化に極力抗い、中期視点での「超集中」「超分散」に対応できる自律力を鍛えておきべきなのだろう。

 

配達あかずきん

【作者】

 大崎 梢

 

【あらすじ・概要】

 本屋を舞台として起きた謎を、書店の店員「杏子」とアルバイトの「多絵」が解決していく、5編の連作短編集。

 

・パンダは囁く

 「認知症を患った」親戚から頼まれた本を買いに来る客だが、伝えられた言葉は本のタイトルでも著者名でもなく、意味不明な文字の羅列だった。「多絵」は文字の意味を見抜き、依頼主が置かれた状況と求めていることを理解する。

 

・標野にて 君が袖振る

 元気な老年の母親が行方不明になったと、その娘から相談を受ける。母は失踪直前に買った本で何かに気づい、どこかに出発したので、母が何を買い何に気づいたのか、ヒントを求めて書店に訪れた。失踪した母親の長男が被害者となった30年前のひき逃げ事件が契機となっていることに気づき、「標野にて 君が袖振る」という万葉集の和歌や、コミカライズされた源氏物語などを通し、時を超えた恋愛物語が明らかになっていく。

 

・配達あかずきん

 1週間前に美容院に配達した雑誌に、美容院の顧客の盗撮写真が挟まれていた。美容院の評判が落ち、大きな事件んとなっている中、配達したアルバイト店員が駅の階段で何者かに突き落とされる。誰がどのように写真を挟み込んだのか、正統的な How Done It ミステリーの展開。

 

・六冊目のメッセージ

 病気で入院している最中に、母親経由で差し入れの本を5冊選んでくれた店員にお礼を言うため、書店に訪れた女性。相手のことを考えられた本の選択だったが、書店に該当する店員はいなかった。誰が本を探したのか、杏子と多絵が推理していく。5冊の本のやりとりを経て、6冊目に思いを込めるラブストーリー。

 

・ディスプレイ・リプレイ

 出版社が主催する、書店店頭での「ディスプレイ・コンテスト」に杏子たちの書店も参加することとなる。人気コミックの販促イベントとして行われるが、ディスプレイに興味を持つアルバイト店員や、そのコミックに愛情を持つ友人たちの協力で立派なディスプレイができあがるが、何者かの手によって黒スプレーで汚されてしまう。調べていく中で、そのコミック作品の盗撮疑惑がネットで話題になっていることも分かり、ディスプレイの破損にも関わっていると思われた。最後はある人物からのメッセージで気持ちの良い幕切れを迎える。

 

【感想・考察】

 作者には書店での経験があるとのことで、本の手配や配達、出版元のと関係など、外側からでは見えない世界が描写されていて面白い。また作者の本に対する愛情が深く滲んでいるのも、読んでいて好感を覚えるポイント。起きる事件に深刻なものもあるが、どちらかというと犯罪性の薄い日常的な出来事についての謎を解いていくスタイルで、読みやすく心に入って来やすい。ミステリの面白さは事件の重大さと比例するものではなく、鮮やかな仕掛けがあれば日常的な話であっても十分に楽しめる。

「標野にて 君が袖振る」はミステリとしても面白いが、時間を超えた恋愛物語として非常に美しい話だった。この連作集では一番好きな作品だ。

 

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