30代にしておきたい17のこと
【作者】
本田 健
【あらすじ・概要】
30代は人生で全ての事ができるわけではないと気付かされる時期。20代までの何でもできる気分は失われるが、自分を分析し、自分が本当にやりたいこと・自分の得意なこと、できることを見つける必要がある。
両親と過ごす時間は、思ったよりも短い。一人の人間として自我が確立して、反抗期の確執を超えたころには独り立ちする人が多い。30代になって自分も親になったりする時期になって、ようやく親を一人の人間として受け入れることができるが、そこから残された一緒に過ごせる時間は短かく大切にするべき。
完ぺきで圧倒的な才能を持つ人はごくまれだが、中途半端であっても複数の可能性を持っている。それらを組み合わせることで独自の価値を出していくことを目指そう。
といったような内容。
【感想・考察】
自分に与えられた時間を逆算すると、今この時を大事に生きなければと思う。一方で自分のやりたいことの実現のためには、目の前のことを粛々とこなすことも必要だとは思う。考える契機にはなる本だった。
蒼穹の昴
【作者】
浅田 次郎
【あらすじ・概要】
中国清朝の末期、西太后が列強に浸食される中国を守ろうとしていた時期の史実をベースにしたフィクション。苛烈な科挙を乗り越え状元として進士登第した文秀と、貧しい生まれから抜け出すため自らの意思で宦官となり、西太后に最も近づく大総管太監の地位まで上り詰めた春雲の二人が中心となる。
夫と息子を毒殺し、歴代皇帝を裏から操った悪女として語れることの多い西太后だが、この話の中では国が苦境に瀕している中、無責任に政権を投げ出せず苦しむ一人の女性として描かれている。春雲と文秀は、西太后を中心とした守旧派と、日本やイギリスに影響を受け、立憲君主制を目指し、光緒帝による親政を実現しようとする変法派の争いに巻き込まれるが、それぞれの生き方を見つけ出して行く。
【感想・考察】
素晴らしい作品。傑作。
最初の方では、科挙や宦官といった中国の制度をその時代を生きた人の視点から説明している。一人の登場人物の呼称が複数あるので、ちょっと人物関係が掴みにくいところはあるかもしれないが、一人の人間でもその時の立場や相手によって多面性があるということが理解できる。
歴史物語としても、政治ドラマとして見ても十分に読ませるし楽しめるが、何より圧倒されたのはその人物造形と人間ドラマの素晴らしさ。
特に感銘を受けたのは、
・自命と引き換えに、王逸を牢から解放した聾唖の少女が、宇宙を理解した瞬間。
・死を覚悟した譚嗣同が、自らに愛を与えてくれた婚約者に思いを伝える場面。
・文秀が光緒帝に宛てた手紙の中で、自らの人に対する姿勢に失敗の原因があったことに気づき、気づかせてくれた春雲の妹の心に寄り添おうとする場面。
といったところ。深い感銘を受けた。
中国の歴史などに若干の知識が無いと読みにくいかもしれないが、ストーリーの素晴らしさは圧巻だった。
白銀の逃亡者
【作者】
知念 実希人
【あらすじ・概要】
DoMs感染者であることを隠し、救急医として勤務していた の元に同じくDoMs感染者である 少女 悠が訪れる。
DoMs感染から生き残る可能性は低いが、生還者は筋力や知覚能力が向上し、またDoMsウイルスを拡散可能性もあると考えられていたため、「森」に隔離されていた。「森」を抜け出した悠は兄に手紙を渡したいという。悠、兄の目的は何なのか。DoMs感染者を追う公安警察や、感染者の支援団体などが、それぞれの思惑で動く中、物語は一つに終息していく。
【感想・考察】
野卑な医者も登場はするが、根底に医療に従事する人々の良心を信じていることを感じる。それが、この作者の作品の暖かさ・すがすがしさの源泉なのだろう。
従来の作品とは若干趣が異なり、病院の中の出来事を超えた国家レベルでの陰謀を描いているが、その中でも、兄弟や親子、上司と部下などの個人的な人間関係が丁寧に描かれていて、心にすっと沁みてくる。
キャラクタ達の美しさが心に残る作品だった。
犬にきいてみろー(「花咲舞が黙っていない」シリーズ)
【作者】
池井戸 潤
【あらすじ・概要】
花咲舞シリーズの短編、舞の見合い相手の若社長を助ける話。
実質的に会社を仕切っている工場長の不正告発に悩む若社長を助けるため、舞と相馬が不正証拠を掴もうと伝票の山と格闘する。
【感想・考察】
池井戸氏の作品らしく、
経理会計を鍵に、
ごく短い短編だが池井戸作品の魅力が凝縮されたような良作。
タモリさんに学ぶ話がとぎれない 雑談の技術
ビッグバンとインフレーション:世界一短い最新宇宙論入門
【作者】
ジョン・グリビン
【あらすじ・概要】
「ビッグバン」と呼ばれる宇宙の始まりに関する理論と、その謎を説明する初期の宇宙は指数関数的な急激な膨張を引き起こしたという「インフレーション理論」について説明した本。
当初は荒唐無稽と思われた「ビッグバン理論」は、実測結果との合致から広く受け入れられ始めてきたが、まだいくつかの疑問が残っていた。
一つは宇宙の「地平線問題」で、「天球の両サイドの地平線が均質であるのはなぜか」ということ。宇宙の膨張が光速を超えるなら、観測できる宇宙の限界の両端どうしは、どのような情報のやりとりもできないが、なぜ均質であるのかという疑問。
もう一つは宇宙の「平坦性」の問題。これは宇宙が永遠に拡張し続けるモデルと、最収縮に転じるモデルの間の完全に均衡が取れた点(平坦性パラメータΩが1)にあるのか、という疑問。
そして均質な中に銀河やエネルギーの偏在がなぜ起こるのか、もふくめインフレーション理論で説明がつく。インフラトン場(スカラー場とほぼ同義で使われている)では今私たちが理解している4つの力(重力・電磁力・強い力・弱い力)が超高エネルギー状態では統一されていた。集中していたものが指数関数的な膨張により急速に拡大したので均質性が保たれ、量子的揺らぎの残滓が銀河などのささいな偏在を起こしたという。
【感想・考察】
とても短い本だが、専門性が高く入門書としては難易度が高い。馴染みのない用語があまり説明せれずに出てくるので理解が難しい。何度か再読し、同じ分野のもう少し長く詳しい本も読んでみよう。
宇宙の始まりや、マルチバースの可能性など興味はそそられるが、正直理解が追いつかない。
地頭力を鍛える
【作者】
細谷 功
【あらすじ・概要】
フェルミ推定という限られた情報から、仮説を立て推論していく手法を元に「地頭」を鍛えていこうという内容。
「頭の良さ」には3種類あり、①知識の多さ、②対人関係力の高さ、③考える力の強さ(地頭力)、がそれぞれに不可欠であるが、従来強みを発揮してきた ①、②の組み合わせ以上に、③と②の組み合わせが重要視されている。コンピュータ・インターネットの急速な発展で単に知っていることの意味が薄れてきたことが原因。
地頭の良さは、知的好奇心がベースになり、論理的思考力と直感力がその上に乗る。さらに仮説思考力、フレムワーク思考力、抽象化能力が必要とされる。
仮説、フレームワーク、抽象化 はそれぞれ、「結論から」、「全体から」、「単純に」考えることに対応して行く。
例題としてあげられた「日本に電信柱は何本あるか」という問題であれば、
「結論」に近づくために仮説を立てる。「人口一人当たりの電柱の数を敷衍する」とか「単位面積あたりの電柱の数を分解して行く」などの仮説を作る。そして自分の周りの電信柱の本数を数えるところから始めるのではなく、日本「全体」を捉えようとするところから逆算して考える。たとえば日本の人口は1.3億人で、世帯数で言えば平均的な世帯は四人ぐらいかなとか、徐々に細かく下ろして行く。そして高圧電線の鉄塔は電信柱にカウントするかとか、細かい定義などは飛ばし、大凡の結論を得るために「電信柱」を大雑把に抽象的に捉える。例えば日本の面積からのアプローチを取るにしても、日本の詳細の面積を求めるのではなく、抽象化したモデルで考える。
そういう、「結論から(仮説)」、「全体から(フレームワーク)」、「単純に(抽象化)」考える練習をすることで、地頭力は鍛えられると結論している。
【感想・考察】
少し前に読んだ、「思考の整理学」とも重なる部分が多いと感じた。(実際に引用もされていた)。知っていることで満足していては知識を有効に使うことも難しい。まずは大雑把であってもその時点で出せる仮の結論をもって進めることが大事だというのは共感できる。
少し本筋から外れていたが、面白いと感じたのは、「流れ星に3回願い事を唱えるとかなう」のは真実だというくだり。常に「仮説」をたて、求めることを「単純に」心の中に抱き続けていなければ、流れ星が現れる1秒以下の時間で3回も願いを唱えることはできない。それだけ強く心に抱いていれば、大体のことは叶うという。それは真実だろう。
考える力のトレーニングには確実に効果があると思われる本だった。