エッセンシャル思考 最小の時間で成果を最大にする
グレッグ・マキューン
本質を見極め、「より少なく、より良く」を提唱する本。
目的を持つことが大切だ、方向性を定めることが大切だ、シンプルであることが美しい、と自分の考え方に完ぺきに嵌る本だった。
学習性無力感で選択することを手放してしまう人もいるが、自分で選ぶことは自由であることで、誰かに決断を委ねることは自由を放棄することだ。
重要なことはほんの僅かしかなく、忙しくしていても重要なことはほんの数%で、そのほんの僅かが大部分の成果を生み出している。本質的なものを見極め、それ以外を積極的に捨てていく。
「やらなくては」ではなく「やると決める」
「どれも大事」ではなく、「大事なものはめったにない」
「全部できる」ではなく「何でもできるが、全部はやらない」
この3つの決断が私たちを混乱から救い出してくれる。
この一節が心に深く響いた。
何かを選ぶことは何かを捨てることで、まあまあ良さそうなチャンスを棒に振るのは心苦しいが、そのために最高に良いチャンスのためのスペースがなくなるのは最低だ。
最高のものを求め続ければ、そこに至る可能性もあるが、途中でまあまあ良いものを拾い、両手がふさがっていては最高のものに永遠に手が届かない。
非常に視差の深い本であった。
久々に再読したいと思う。
なにかのご縁2 ゆかりくん、碧い瞳と縁を追う
野崎 まど
前作からの続き。
フランスから来た高校生縁結びストローランと、年老いた縁結びうさぎのユリシーズが絡んでくる。
今回の話で一番印象的だったのは、先輩と漫画になりたいという夢との絆を切る話。
自分の本気の作品が受け入れられず、自分の能力の限界を見るのが怖くて、自分で言い訳ができるレベルの中途半端な作品しか書いてこなかった先輩が、その話の主役。
社会に出て数年経ち、恋人が背中を押したこともあって、初めて本気の作品で勝負をかけてみたがあえなく撃沈、漫画をあきらめ、恋人と一緒に地元に帰って暮らすことを決意する。
縁結びのうさぎは、先輩と先輩の夢を結ぶ綻びた縁を切って、先輩を苦しさから解放した。
表現をしなければ他者からの評価を受けることもなく、自己の可能性は無限だと感じていることはできる。ただそこを踏み出して、他者の評価を受ける覚悟がなければ何も生み出せない。他者に自分のできることを晒してこそ、自分のできることが見えてくるし、自分の成長が果たせるのだろう。
この作者は作品を作り表現することに徹底的に真剣なゆえに、そういう勇気すら持てなかった先輩に厳しい現実を見せているのだと思う。
それでも自分の殻の中で完ぺき主義を貫く態度から一歩踏み出したことは、大きな成長の一歩で、何かを表現することを生業としている人はもちろん、どんな立場の人にとっても必要なことなのだろうと感じた。
なにかのご縁 ゆかりくん、白いうさぎと縁を見る
野崎 まど
アムリタから2へ繋がるシリーズを読み、野崎まどの著作に感銘を受けたが、この作品は尖った部分がなく、違った作風でまた違う魅力を持っていた。
典型的にラノベ的な文体であっさり読みやすいのは、他の作品と同じだが、人の業や内面の闇に深く降りていく部分はなく、人と人の繋がり、縁を暖かく描き、まっすぐに感動させにくるストーリだった。
縁を司るうさぎと、縁が見えるようになった主人公が、恋愛の縁、友情の縁、家族の縁に触れ、死者との縁に絡みとられた人を救い、人と人の縁の暖かさ、人への信頼を描いていて、暖かく優しい読後感を味わえた。
この作者の作品は自分の好みのど真ん中にくる。
この社会で闘う君に「地の世界地図」をあげよう 池上彰教授の東工大講義
池上 彰
著者が東工大の理系学生にリベラルアーツの講義をした内容を書籍に起こした本。
池上彰の著作だけあって非常に分かりやすいし、学生の反応も興味深く、通常の書籍とは違う面白さがある。
日本が戦時中に原爆の開発に着手していたことなどは、全く知らなかった。もし日本がアメリカより早く原爆を開発していたら歴史が変わったのかもしれないとも思う。
また憲法改正についての講義は最近の安倍政権の動きから非常にタイムリーな内容。現行憲法の成立過程、自衛隊の成立過程など知っているつもりでも、時系列を整理して説明されると理解が深まる。憲法改正に対しどういう態度を取るにしても、歴史を知り、現在を知ることは必要だと思う。
また北朝鮮の3世代に渡る金政権の成り立ちも、最近の北朝鮮情勢を理解するのに役立つ知識だった。この本が書かれた2012年当時からみても金正恩の動き方は大きく変わっているようだ。日本人の大多数は北朝鮮に実際に訪問したこともなく、報道で得た知識のみで判断しているので、実際に現地を訪問した池上氏の話を聞けるのは貴重だと思う。池上氏自身も相当バイアスのかかった見方をする人だと感じてはいるが、自分自身が実際に触れることができないものを判断するときは情報ソースは少しでも多角的である方がましだと思う。
2012年以前に行われた講義だが、最近の社会動向を理解するのにも役立つ内容だった。
孤独の価値
森 博嗣
孤独を感じる心は、孤立が生存を脅かすことに繋がることもあるが、現代においては社会的な刷り込みの要因が大きい。
孤独であること自体は必ずしも悪いことではなく、積極的に楽しむこともできる。
創作や研究に没頭する人には、孤独はむしろ必要不可欠な要素であるということ。
寂しさを感じるなら詩でも書いてみよう、と述べている。
一人で静かに過ごすことが好きな私には、受け入れやすい内容だった。
端的に言えば、他者との関わりを控えている作者が、「孤独でも別にいいだろう」と言いながら、周囲を気にして必死に正当化しているように見える内容で、作者を可愛らしく感じる。
この作家のミステリの登場人物が、天才肌でありながら、憎めない可愛さを持つのは、作者の人格がにじみ出ているということだろうか。
孤独を愛する人、孤独を恐すぎる人の両方に勧められる本。
一流の記憶術 ーあなたの頭が劇的に良くなり「天才への扉」がひらく
六波羅 穣
物事を記憶する方法を述べた本。
短い本だが、内容は濃かった。
記憶を活用するには、銘記、保持、想起の3ステップを確実に行わなければならない。著者は下記の3点が重要だとしている。
①対象に注意を向け、情報を短期記憶に入れる
②想起練習を繰り返し、情報を長期記憶に入れる
③記憶対象を手がかりと結びつける
まずは対象を意識していなければ、見えていても聞こえていても短期記憶にも残らず、何も始まらない。全てを記憶する必要はないが記憶する必要があることを選択し注意することが始まり。
ついで、短期記憶に残った情報を長期記憶に残すことが必要。エヴィングハウスの忘却曲線の話もあったが、1時間後に覚えていることは1日後も覚えているし、1週間後に覚えていることは1ヶ月後にも覚えている。保持の期間が長くなればなるほど、忘れる可能性は低くなる。
長期記憶へ定着させるには、”繰り返し” ”想起する” 訓練が必要。メモを何回も読んだり、唱えたりするのも効果はあるが、意志を持って思い出そうとして思い出すことがもっとも有効。
そのあとで定着した記憶を手がかりと結びつけて引き出す技術が必要。
特に記憶しにくい事柄を覚えるために、幾つかの記憶術を紹介していたが、その中でも汎用性が高そうなものは以下の3つ。
・頭文字法
記憶すべき事柄の頭文字を並べて記憶する。
あまり対象項目が多いと難しいが、簡単に導入できる。
・物語法
記憶すべき情報のイメージを一繋ぎの物語として記憶する方法。
物語を考える手間はあるが、記憶しやすく想起しやすい。
・場所法
Sharlockに出てきた Mind Palace。場所をペグとして情報を結びつける。
高度だが習得してみたい。
情報はネットでなんでも検索できる時代だが、自分の中に記憶を保持しておく能力がないと、溢れる情報から価値ある意味を取り出すことはできないのだろうと思う。
火花
又吉 直樹
売れない芸人と、彼が師と仰ぐ先輩芸人の話。
芸人さんの作品が芥川賞を受賞したということで話題になっていたが、空虚さと熱さを同時に感じさせる作品の雰囲気は話題性を差し引いてもとても心地よく、没入しやすいストーリーだった。
芸人の感性や笑いに対する真摯さは十分伝わるし、エンターテインメントとして読者を楽しませようという思いが随所で伝わってくる。笑かしたり、寂しくさせたり、感動させたり、心を揺さぶろうとしてくる。
巻末の芥川への手紙も面白い。やはり芸人でエンターテイナーなのだと思う。
話題性が強すぎる本ということで色眼鏡で見られているところもあるが、一度は読んでおいて損はない本だと思った。